勇気のないマネジャーに、生産性の向上は出来ない(【連載12】新しい『日本的人事論』)

画像: Daniel Jolivet

2018.07.28

組織・人材

勇気のないマネジャーに、生産性の向上は出来ない(【連載12】新しい『日本的人事論』)

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する連載。

3.働く人にとっての分子への取り組み

働く人が、分子(成果や評価・処遇)を大きくしようとするとき、まず重要なのは学びである。日本のビジネスパーソンの学ぶ時間は、国際比較で極端に短いという。知的労働や感情労働が主流となった現代において、学ばないままにキャリアを形成していくのは難しい。問題意識を旺盛にし、本質や原則を知ることによって視点や自信を確固たるものとし、多様な引き出しを獲得して効果的な取り組みや対応を可能にするのは、学びの力に他ならない。場数とマニュアルの習得によって習熟した労働者となり、その反復がキャリアとして評価された時代はとうに過ぎている。

学びとは、第一に、場数を丁寧に振り返り経験として蓄積すること。第二に、社内外の関係者から内容のあるフィードバックを受けること。第三に、読書や研修などによって異なる視点・視野を得ると同時に、自らを客観視する機会を持つこと。第四に、会社や仕事以外の活動や交流を通して、多様な刺激を受けることである。これらの前提として、自分にないものや自分とは異なるものに対する柔軟で真摯な態度、しなやかで謙虚な態度、十分な受容性が求められるだろう。

ネットワークの構築も、分子を大きくするためには欠かせない。いくら熱心に学んでも、不得意や欠点、出来ないことや知らない分野はなくならないからだ。したがって、成果を大きくするためには、自分の外側に能力を持つという意味でのネットワークが必要になる。自分にできないことを快く引き受けてくれる、自分が知らないことを喜んで教えてくれる人とのパイプが多ければ多いほど、太ければ太いほど、成果が上がるようになる。このような関係構築をしていくにも、学びが重要である。ネットワークとは、専門性の交換であるからだ。こちらに大した専門性がないのに、やってくれ教えてくれは通じない。ネットワークの本質は、互いの専門性に対するリスペクトにある。学びつづけて専門性を磨く者同士だからこそ相互に委任する機会が得られ、そこから大きな成果が生まれてくるのだ。

4.働く人にとっての分母への取り組み

働く人が分母(働いた時間や心身の稼動)を小さくしようとするには、二つのポイントがある。一つ目は、ライフ(人生や生活)の充実を図ることだ。子を持つ母親の仕事は多くの場合、素早く効果的である。これは、仕事以外に心から取り組みたい、取り組まねばならないと思っている課題があるからだろう。職場で「早く済ませて早く帰ろう」という掛け声がかかっても、何十年もの間それがまったく実現していないのは、早く帰れば残業代が減るし、帰ってもすることがないし、居場所もないからである。会社は、従業員が早く帰ることによる逆インセンティブに対して手当てをしないし、働く側も早く帰るインセンティブがない。これでは、労働時間が減るはずはない。会社が逆インセンティブを早期に解消することを期待するが、同時に、働く人達はワークの改善だけでなく、ライフ(人生や生活)の充実も真剣に考えるべきだ。ライフの充実は、労働時間の短縮だけではなく、ワークの内容にも必ず好影響を及ぼすはずである。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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