ベストプラクティスによる属人性排除の幻想

2008.02.18

経営・マネジメント

ベストプラクティスによる属人性排除の幻想

伊藤 達夫
THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役

 業務のシステム化は経営の大きな課題ではあります。私も、業務改革プロジェクトに、何度か携わったことがあります。ただ、その本質的な部分に対する理解に基づいて、業務を改革し、システム化していくというプロジェクトにはあまり出会ったことがありません。

 私の知人の親戚(ちょっと遠いですね・・・)が、NHLの下部リーグ、大リーグで言えば3Aに当たるリーグで優勝したチームのコーチをやったそうです。過去最強とも言える戦跡を残したチームを関係者は絶賛し、「素晴らしいシステムだ」と口々に言ったそうです。

 しかし、そのコーチが選手に課したのは、局面局面で最高の判断をするためのトレーニングだけだったそうです。アイスホッケーは、瞬間的に複数の判断をしながら、体を動かさなくてはいけないスポーツです。だから、体を動かしながら、複数の判断をして、一連の動作ができるようになるためのトレーニングばかりしたそうです。そして、すごい判断力を持ったメンバーが揃った。

 その上で、試合では決め事、約束事を作らずに自由に、最高の判断をしろ、とだけ言って選手をコートに送り出した。だからシステムは無かったそうです。でも、関係者は素晴らしいシステムだと絶賛した。

 これはどういうことなのか?

 最高の判断力を持ったすごく優秀な人が集まれば、その都度、その都度、最高の判断ができるから、最小限の約束事で済むけれど、判断を誤る可能性が高い人が集まったら、判断せずに、決まった約束事に従うほうがよい、というお話しですね。そして、判断力が養われてきたら、少しずつ、決め事を減らしたり、複雑にしていける、ということだと思います。

 ビジネスにおける業務は、これと全く同じですね。今いるスタッフのレベルに合わせた約束事、決め事が必要だが、スタッフの成長に伴って決め事を柔軟に変えていけば、効率は向上していくんですね。業務は常に変化していくべきものです。それをその業務のリーダーがスタッフの成長を見ながら、コントロールしていくんですね。そのリーダーの手腕に、スタッフの成長と、業務の効率化がかかっているんです。

 もし、スタッフがクオリティが低い、業務が非効率であれば、リーダーのマネジメント能力が低いのです。これは、認めがたい現実かもしれませんが、これを受容しないと、トヨタ自動車が毎年業務効率化プロジェクトを実施し、コスト削減を続けているというニュースの意味が理解できません。

 業務というのは、固めるものではなく、柔軟性を持って設計し、スタッフの成長に伴って組み替えていくべきものです。業務を固めて属人性を排除すれば、それ以上の効率化はなされず、スタッフの成長を意味なきものにしてしまいます。

 ただ、このことを理解できず、社員が駄目だけど、いい業務をベンチマークすればなんとかなるのではないか?という幻想を抱き、業務の競争力を持てずにいる企業が多いことも事実です。

 リーダー、経営者の方には耳が痛いかもしれませんが、社員ができない、業務効率が悪い、いいビジネスシステムができないのは、

 他ならぬ、あなたのせいなのです・・・。


続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

伊藤 達夫

THOUGHT&INSIGHT株式会社 代表取締役

THOUGHT&INSIGHT株式会社、代表取締役。認定エグゼクティブコーチ。東京大学文学部卒。コンサルティング会社、専門商社、大学教員などを経て現職。

フォロー フォローして伊藤 達夫の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。