本格ミステリの定義と作家秘密結社

2017.11.22

開発秘話

本格ミステリの定義と作家秘密結社

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/ミステリは、もともと神話っぽい怪異譚。ところが、20世紀になるころ、スマートな「知恵落とし」の本格的な「デテクション(探偵小説)」が登場してきた。しかし、それは、ほんとうにきちんと解けるか、出版前にプロの同業者の査読を必要とし、そのために、著名な作家たちによって秘密結社が作られた。/

 もう一つは、「探偵非犯人ドグマ」。これは、ノックスの十戒(第七戒)にもヴァン・ダイン二十則(第四則)にも出てくる。しかし、デテクションの外枠構造において、作者はむしろ犯人と一体であり、「第二の探偵」である読者と対立している。この意味で、内在的な「第一の探偵」が犯人であってはならない、というルールは演繹されない。実際、味方であるはずの警察の上司が犯人の一味、などというストーリーは、フィルム・ノワールにおいて、いくらでもある。探偵自身こそ、記憶喪失で真犯人、というオチも、その手がかりが歴然としており、読者がその探偵本人より先に気づきうるものであれば、むしろミステリらしいミステリ、ということになるだろう。(たとえば『エンゼル・ハート』)

 ほかにも、チャンドラーだの、ハルだのの規則があるが、これらはみな、自分のスタイルとしての主義の問題であって、デテクションの必要条件ではない。

 デテクション・クラブの存在が重要だったのは、デテクションというジャンルが、その出版以前に、プロ仲間による査読を必要としていたからだ。手がかりが必要充分であるか、解法がフェアであるかどうか、このギルド的クラブ内でチェックすることによって、デテクションの品質を維持していた。だからこそ、その後、ファンも一般層にまで爆発的に増えていった。

 さて、話は最初に戻って、『半落ち』だが、あれが本格ミステリたりえないのは、その作者の横山秀夫などより法規に詳しく、1999年6月の無期懲役囚のドナー登録のための拘留一時停止の申し立てに対する却下の法務省判断(後に被告人としての申し立ても広島高裁で却下)を知っている者が、かえって謎が解けないという事態に陥るからだ。だいいち、これは微妙な一件だったので、当時、相応に話題になった事件だ。まして、同じドナーを題材にしていて、この判例に事前調査で行き当たらなかった、などということは、プロとしては通常は極めて考えにくい。

 作者より無知でないと解けないデテクションなど、デテクションではない。現実性がない、ということは、こういうことだ。反論云々の話ではない。この意味で、あの本は、出版する以前に、編集部の素人の「第一読者」などに頼るのではなく、北方謙三のようなプロの作家仲間の査読を受けるべきだった。それによって、修正し、完成する可能性もあったはずだ。

 どこぞの「本格ミステリクラブ」がどんなものか知らないが、デテクション・クラブのような、純粋に知恵比べとして、プロ仲間で出版前に査読することが、本格デテクションには必要だ。こんなことは、テレビのクイズ番組でさえも当然にやっている。しかし、当時からして、ネタの先取り、横取りは横行していたようで、だからこそ、こういう秘密結社ごっこが必要だったのだろうが。


by Univ.-Prof.Dr. Teruaki Georges Sumioka. 大阪芸術大学芸術学部哲学教授、東京大学卒、文学修士(東京大学)、美術博士(東京藝術大学)、元テレビ朝日報道局『朝まで生テレビ!』ブレイン。専門は哲学、メディア文化論。最近の活動に 純丘先生の1分哲学vol.1 などがある。)

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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