坊主も知らないお盆の起源

画像: photo AC: acworks さん

2017.08.12

開発秘話

坊主も知らないお盆の起源

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/お盆は、もとは儒教の、死んだ先祖の罪業の宥しを請う「中元」の行事。インドの輪廻の死生観を持ち合わせていなかった中国や日本の葬式仏教が、この中元信仰に飛びついた。しかし、儒教も仏教も無く、死者を思い、自分の人生の来し方行く末を考えるのに、夏半ばのお盆は大きな意味がある。/

 ここから半年、旧暦7月15日の満月が「中元」。こっちは堯に次ぐ聖人地帝、舜(しゅん)の誕生日。一説に殷王朝の祖のこととされる。この父親、継母がとんでもなくひどいやつで、継母の連れ子に家屋敷の財産を相続させるために、なんとか舜を殺そうと、屋根の上に登らせて家に火をつける、井戸の底に降りさせて上から土で埋める、と、むちゃくちゃ。それでも舜はすべてを宥(ゆる)し、孝行を尽くし続け、これを知った堯は舜に天子の位を譲った。それで、この中元は、すべての罪業が宥される日、ということに。

 その後、舜は、禹(う)に譲位し、地官大帝となって、死者の世界を預かる。だから、遺族は、この寛大な舜に先祖の罪業の宥しを願えば、とくに地の底の蓋が開く中元の晩の煌々たる満月に願えば、その願いはかなえられる、という。それこそが舜に倣った善行であり、先祖が死してなお行える遺族の孝行。

 この中元信仰に、インド仏教の根底にある輪廻の死生観を持ち合わせていなかった中国や日本の仏教は飛びついた。イラン的な死霊や地獄の説話を取り込んで、儒教的な先祖供養を主とする葬式仏教になっていった。ここにおいては、人が死んだらすぐに、遺族がかってに寺に頼んで戒名を付けて仏門に押し込み、葬式や法事で無理やりお経を教え込んで、解脱成仏させようとする。そうしないと、死んだ自覚を持つこともなく、半端な死霊となって、この世をさまよい続け、下手をすれば地獄にまで堕ちて、遺族たちにも悪因縁を及ぼし続ける。だから、先祖死霊に因縁因果の空を言い含め、その罪業や受恩を補ってあまりある功徳をまわりに施す葬儀や法事は大切だ、ということになった。

 昭和天皇が終戦の詔書を8月15日に公表されたのも、この日が旧暦で中元、宥罪の日だから。お盆だからではない。玉音放送は、この日以外にはありえなかった。ただ、その罪としたところが何であったのか、よくわからない。しかし、あれこれことわけするのではなく、天皇とともに、国民もまた、ただ一身の不徳を顧みて、全面に伏して請い祈ってこそ、天帝地帝の宥しを得て、その向こうに再生の道も開くことができた。


葬式仏教で悪いのか

 人の力は生きていればこそ。悪行三昧の横暴強欲な人が死ねば、その人にさんざんに苦しめられてきた周囲の人々が、その遺族に、復讐しないにしても、冷たく当たる、というのは、世の道理。そうでなくても、生前に多くの人々の世話になって一家を成しながら、その遺族が、その先代が受けた恩を忘れ、あたかもすべて自力でやってきたかのようにふるまえば、それはそれで、もうつきあわん、ということにもなろう。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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