調達購買改革を巡る誤解 その3

2016.09.23

経営・マネジメント

調達購買改革を巡る誤解 その3

野町 直弘
調達購買コンサルタント

前々回から調達購買改革を巡る誤解について取上げていますが、今回はその三回目です。「複数社発注」=「リスクマネジメント」の誤解について取り上げます。

何故そのような手法をとっているのでしょうか。その理由は明快です。同じ品目を複数社から購買することは二重投資になるからです。特に自動車の場合購買品の殆どは各自動車メーカーのカスタマイズ品。カスタマイズ品ということは新規発注のためには金型や専用治具、専用工具などの設備投資が必要です。もし全く同じ品目を二社以上から買うということになると、これが二重三重の投資につながります。

冒頭での半導体事例のように専用投資が不要な汎用品や原材料など一部の品目では二社以上から購入しても二重投資にはなりません。このケースでは複数社発注を行うことで競争によるコスト削減と供給リスクマネジメントにもつなげることができます。
しかし全く同じ品目を複数社発注するということは一般的にはコスト的な負担につながるので、重要且つサプライヤがここしかできない、というような供給リスクマネジメントを優先せざるを得ないようなボトルネック品目でしか行われないでしょう。そういう品目は一部であり稀な品目と言えます。

こういう状況を考えると「複数社発注」は必ずしも「供給リスクマネジメント」にはつながらないのです。

しかしカスタマイズ品であっても品目や条件が変われば全く同じ品目を複数の会社や工場から買うことがあり得ます。以前私が自動車会社で購買担当をしていた時ですが自社生産していた車種は生産量が非常に多く、1ラインだけでは生産が間に合いませんでした。このようなケースでは異なった工場の2ラインで最終製品を生産しているので、全く同じ部品を異なったサプライヤ2社から購買するという複数社発注の手法を取ることができるのです。

また、最近では生産戦略上国内と海外の2工場(もしくはそれ以上)で同じ製品の生産をしているケースも少なくありません。このようなケースでは二重投資になったとしても輸送コストや現地の生産コストを考えると国内と海外の複数工場や複数社から同じものを購買するというケースもあり得ます。
これらのケースでは全く同じ品目を複数社発注することで供給リスクマネジメントにもつながるのです。

繰り返しになりますが、これらのケースはレアケースであり、多くの品目については供給リスクマネジメントのために二重投資によるコストアップを容認するということは考え難く、複数社発注はリスクマネジメントに直結しません。それでは供給リスクマネジメントを目的とした購買手法の昨今の動向はどのような状況にあるのでしょうか。一つ言えることは複数社発注についてもそうですが、コスト増や高負荷を無視したリスクマネジメントは無理があるということです。
昨今の動向としてはティア情報などの源流情報の収集、蓄積などはしっかりやっておくという前提のもと、リスクに対して事前に手を打っておこうというリスク回避、軽減策よりも事案が起きた時の初動の速さと、収集した情報を元に適切な意思決定を行うことをより重視していく方向にあるのではないかと考えます。
また現場の復興をまず第一優先とし、もし現場の復興にあまりにも時間がかかれば、まずは設備や金型の移転等によって同じサプライヤの違う工場での生産に移行する、それもできなければ海外含む代替サプライヤの検討、というのが基本的な考え方になっています。
基本的な考え方は無理なリスクマネジメントは長続きしない、という前提で如何に復興を最優先するか、ということです。これは以前メルマガでもふれましたトヨタ自動車の復旧支援活動でも同じような方針が打ち出されています。

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野町 直弘

調達購買コンサルタント

調達購買改革コンサルタント。 自身も自動車会社、外資系金融機関の調達・購買を経験し、複数のコンサルティング会社を経由しており、購買実務経験のあるプロフェッショナルです。

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