『医者は現場でどう考えるか』ジェローム・グループマン(石風社) ブックレビューvol.12

2016.08.18

ライフ・ソーシャル

『医者は現場でどう考えるか』ジェローム・グループマン(石風社) ブックレビューvol.12

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

つい最近、IBMが開発した人工知能「ワトソン」が、医療で画期的な活躍をしたと報道されていた。医師では診断が難しかったがん患者の病名を、わずか10分ほどで突き止めたのだ。よく言われる話だが、医者も人間である。だから、時には誤診も犯す。では、あなたのかかりつけの先生は、診断時にどう考えているのだろうか。

体力を維持するために穀物やパスタなど消化しやすいものを食べ、それでも食べては気分が悪くなり吐く。最終的についた病名は、過敏性腸症候群だった。もちろん、それで病気が治るわけもなく、体重は37キロまで低下する。

そして、ある消化器の専門家と出会う。もちろん、彼もこれまでのカルテを見ている。けれども、彼は、カルテに頼るのではなく、病人に質問し、答えを聞き、先入観なしで診察し、これまでの医師とは違う視点(彼らの診断によって彼女は一向に回復していないのだから)から考えなおした。

果たして、これまでどの医師もやったことのない血液検査と内視鏡検査を行い、彼女の病気を突き止めた。病気は穀物に含まれているグルテンに対するアレルギーだったのだ。パスタなどを食べれば食べるほど、腸に炎症と障害を引き起こす。苦しむのは当然だ。

医師はどのように思考するか

医師は、人工知能ではない。だから、ワトソンのように2000万件もの論文を学習することは、物理的に不可能である。しかも人間だからこその、思考法から逃れることができない。

例えば、ヒューリスティクス(発見的問題解決法)である。

「研究によると、ほとんどの医師は、患者と会った時点で即座に二、三の診断の可能性を思いつき、中には四つや五つの診断を頭の中で巧みに操る器用な者もいる。それらすべての極めて不完全な情報に基いて仮説を展開させるのだ(同書、P42)」

あるいは代表性(レプリゼンタティブネス)エラーである。

「思考が一つの原型に導かれ、その原型に合致しない他の可能性を考えることを怠り、間違った原因による症状認識へと帰結してしまう(同書、P52)」

さらには確証バイアスもある。

「自分の予想どおりの結果のために、情報を選択して受け入れたり無視したりするこの過ちのもとは、ツヴェルスキーとカーネマンが「アンカリング」と呼んだ思考である。錨を下ろすということは、複数の可能性を考えず、単一の可能性を速やかに見つけ、固執する(同書、P76)」

医師も人であるため、こうした思考の罠にハマる可能性は否定できない。あるいは探偵ホームズのように「本来ならあるべきなのに、現実には見えていないものに気づく」ことは、まずない。人は自分の見たいものしか、なかなか見えないものだ。

我々は、医師とどう接するべきか

医師も間違うことがある。これを前提として医師と付き合うことが大切だ。だからといって、すぐにセカンドオピニオンに走れとか、目の前の医師に対して敵対意識を持てなどという話では、まったくない。

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