日本と大きく違う、デンマークの高齢者像とは。

画像: lasta29

2016.07.01

ライフ・ソーシャル

日本と大きく違う、デンマークの高齢者像とは。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

1988年、デンマークでは「プライエム」(老人介護施設)の新規開設を禁止した。その理由とは?

「住まいとケアの分離」とは、居る場所によってケアの質・量が決まるのは不合理・不平等という考え方である。施設では全員に十分なケアが提供されるが、自宅で暮らし続けるとケアの量が限定されてしまうのは問題であり、これを解消するため「居場所とケアがセット」となった「施設」を作るのではなく、在宅で暮らす人それぞれのニーズに合わせてケアが提供できる(住まいとケアが分離した)体制を整え、同時に「高齢者住宅」の拡充を進めていったのである。

日本がデンマークに見習うべき点を、二つ挙げたい。

まずは、適切な“高齢者像”の設定だ。日本では高齢者を「助け支える対象」と見る傾向が非常に強いが、デンマークでは「自立的に生きる主体」と位置付けている。この差は、議論の出発点として非常に大きい。

実は日本でも、2003年に厚労省の高齢者介護研究会が発表した「2015年の高齢者介護」の中に「元気なうちの早めの住み替え構想」があり、施設でなく高齢者住宅の拡充による福祉政策が謳われたが、依然として施設の開設が中心になっているのは、高齢者像の設定に大きな差があるからだ。国が進めている地域包括ケアの『尊厳の保持と自立生活の支援』という目的もデンマークとよく似ているが、これに対する理解や共感が広がらないのは、一般に共有されてしまっている「助け支える対象」という弱々しい高齢者像との乖離があるからだろう。

次に、「施設」と「住宅」の線引きを明確にする必要がある。現状は、普通の自立生活をするための設備・機能がないのに、住宅風のスペースを作っただけで『住宅型・老人ホーム』、生活相談と安否確認さえあれば『サービス付き高齢者住宅』と呼称できてしまう。これら、施設を“住宅っぽく”しただけでは、デンマーク基準なら「施設」である。普通の住宅レベルの生活機能、十分な広さ、かつ必要なケアを受けられる環境にある住まいに限定して「高齢者住宅」と規定すべきだ。施設と住宅の線引きが曖昧な状態では、高齢者が安心して住み替えることなどできない。また、デンマークでは現役時代に住んだ家を「(高齢者にとって)不適切な住宅」としているのも注目に値する。

高負担・高福祉を目指そうというのではない。「良質な高齢者住宅」は、高齢期の尊厳ある自立生活を実現しやすいだけでなく、事故・病気・孤独などのリスクが減るため介護予防の効果がある。つまり、「良質な高齢者住宅」によって健康寿命が延びるので、医療・介護費用を削減できるし、施設の入所者も減らせるから社会保障費の削減が期待できる。社会保障費を適正化し、同時に活力ある超高齢社会を作るためには、「良質な高齢者住宅の整備と、元気なうちの早めの住み替え」という新たなアプローチを積極的に推進すべきだ。施設不足や介護職員不足への対応、医療費・介護費の自己負担率の引き上げなどは、付け焼刃に過ぎない。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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