高齢者に、死を学ぶ機会を。

画像: PhotoAC himikoさん

2016.05.20

ライフ・ソーシャル

高齢者に、死を学ぶ機会を。

川口 雅裕
組織人事研究者 /NPO法人「老いの工学研究所」理事長/一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人

日本の高齢者の実態は、老年的超越とは程遠く、悪い意味で「若い」、年齢に比べて「幼い」と感じてしまう。

80歳の男性に話を伺う機会があった。子供たちが独立し、夫婦二人の暮らしを楽しむために、郊外の戸建の広い家を売って便利の良い立地にあるマンションに引っ越したら、半年後に奥様が末期癌と診断され、しばらくして亡くなったという。73歳のときだった。奥様は末期癌と診断されてから仏教を学び始めたそうだ。本を読む以外に、通信教育にも取り組むほど熱心だった。「暮らしぶりも、最期に自宅で死んだときの様子も本当に穏やかで、安らかだったのは、仏教を学んだからでしょうねえ」と言っておられた。

一般には、年を重ねると人生を達観できるようになり、高い視点から生死を理解し、精神的な成熟や超越を得ると考えられている。「老年的超越理論」もそのような学説である。しかし、老いの工学研究所が実施した「死に対する姿勢や考え方」に関する調査では、年齢と死生観には関連がほとんど見られない。「1.死後の世界はある」「2.命より大切なものがある」「3.死について真剣に考えるきっかけがあった」を見ると、高齢者よりもむしろ40歳代後半の人達の方が死にしっかり向き合っている。日本の高齢者の実態は、老年的超越とは程遠いように感じられる。


死に向き合うかどうかは、人生の最終盤の生き方を左右する。何となくそれまでの延長で生きるのと、死から逆算する、あるいはいつ死んでもいいようにと考えて生きるのとでは取り組む内容も意欲も違ってくるからだ。従って、国が言う「生涯現役社会」の実現は、高齢者が死に向き合えるかどうかが大きい。また、死に向き合い、準備や意思表明を行っておくのは、自分らしい死に方を実現し、子供たちや周囲に必要以上の迷惑をかけないために重要である。したがって、医療・介護に関わる問題の解決にとっても、高齢者が自分の死と向き合えるかどうかが大きい。

このように、高齢社会が抱える諸問題の解決のためには、高齢者自身が死にしっかり向き合う必要があるわけだが、調査結果から分かるように現状はまったく物足りない。高齢者は昔、子供の勉強や部下の仕事に対して「計画を立てなさい」「準備を整えなさい」と指導していたと思うが、自分のこれからについては計画や準備ができておらず、悪い意味で「若い」、年齢に比べて「幼い」と感じてしまう。準備不足のまま本番を迎える仕事やイベントがうまくいくはずがないし、日本中のあちらこちらで準備不足のイベントが行われているとしたら、混乱や後始末でコストやパワーがかかりすぎるのも当然である。

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川口 雅裕

組織人事研究者 /NPO法人「老いの工学研究所」理事長/一般社団法人「人と組織の活性化研究会」世話人

組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革・健康経営など)や、高齢者・高齢社会をテーマとした講演を行っています。

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