なぜロボットはコップを持てないのか(人にはどんな仕事が残るのか)?

2016.06.14

営業・マーケティング

なぜロボットはコップを持てないのか(人にはどんな仕事が残るのか)?

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

Googleが開発した囲碁AI(Artificial Intelligence=人工知能)「AlphaGo」が、韓国のプロ棋士イ・セドル氏を破った。ディープラーニングは、凄まじい勢いで進化している。では進化するAIがロボットに搭載された時、ロボットはどこまで人の代わりを務められるのだろうか。

触覚とは、人の五感の中でもっとも原始的な感覚である。つまり、もっとも長い時間をかけて進化してきた感覚だともいえる。なぜ、早くから触覚が必要だったのか。それは生きのびるためだ。

必要なのは、例えば痛みの感覚である。痛みとは、自分の体に対して何か力を加えられたこと(=危害を加えられたこと)を意味する。指先に押しピンを刺せば、「指先が痛い」と感じる。

けれども、これは実はとても不思議ではないか。押しピンを刺した場所は指先だけれど、痛覚は脳内(感覚野)で発生している。なのに、なぜ指先が痛むように「感じる」のだろうか。しかも、痛みは押しピンを刺すとほぼ同時に襲ってくる。指先で感じている痛みは、そこに注意を向けるよう脳が指示した結果である。痛覚は脳内にあるが、実際に体を傷つけられたのは指先だ。次に同じことをしないように、指先が「痛い」と感じるように脳が指示しているのだろう。

あるいは、煮えたぎった熱湯に手を入れた時のことを考えてみよう。手がお湯に触れた瞬間に、人は手を引っ込める。そして、安全なところに手を引いてから「熱っ!」と声を出す。熱さを感じたのは、手がお湯に触れた瞬間ではなく、手を引き終わってからである。このとき感じた熱さは、次に同じことを繰り返さないように記憶される。こうして生存のために必要な記憶を蓄えていく。

これら脊髄反射的な行動は、小脳で処理される。小脳には神経細胞の8割程度が集まっている。ただし、小脳の神経細胞は、複雑な神経ネットワークを作らない。だから、刺激を受けて(入力)から行動に移す(出力)までの時間が極めて短い。生きのびるためには、こうした瞬間的な反射能力が必要だったのだ。

無意識の動作をロボットは真似ることができない

2045年、人類はシンギュラリティを迎えるといわれている。ディープラーニングによりAIが発達し、センシングを含めたロボット技術が発達した時、人の仕事の大半がロボットに取って代わられるという話だ。

確かに、単純な事務作業なら、人はAIに勝てないだろう。過去の判例や診療成果など記憶力(=データ量の多さと検索の速さ)が勝負になる分野、弁護士や医師のような仕事も、AIを活用するようになるのではないか。力仕事はロボットスーツがサポートしてくれるはずだ。

では、ロボットにはできない仕事はないのだろうか。あるいは、人にしかできない仕事は残らないのだろうか。

カギは無意識にある。人が無意識のうちに行っている動作を、プログラム化することは(今のところ)できない。無意識を、あるいは小脳で起こっている入力→出力反応を解明できないかぎり、それをプログラム化することは、理論的に不可能のはずだ。

そんな無意識の反応が求められる仕事、人と人が接する仕事、接する中で無意識下で何かをインプットされ、それに対するアウトプットを返すような仕事、いわゆる閃きを求められるような仕事、人の気持ちの動きを気配で察して対応する仕事を、ロボットがこなせるようになるには相当な時間がかかるだろう。

いずれはPepperが飛躍的に進化して、目の前にいる人の仕草から、その人の心の動きまでを読み取れるようになるのだろうか。感情の動きは、感情を持たないロボットには感じ取ることができないと、今の時点では思う。そして、そこに人にしかできない仕事が残るのだとも思う。

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