景気低迷期における社員教育の考え方

2008.01.10

組織・人材

景気低迷期における社員教育の考え方

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

企業の社員教育は一種の遅行指標で、すぐさま景気の変動を受けるものではない。なぜなら、前年度にあらかたのプランができあがっており、当年度はその実行に当たるからだ。 しかし、今回の景気失速の見込みは、多くの企業がまさに来年度(4月以降)のプラン策定期におこったため、縮小が予想される。

■縮小が招くじわじわとした弱体化

筆者のビジネスで企業研修の講師業はある一定の比率を占めるため、社員教育の縮小はちょっと困る。いや、すごく困る。
しかし、今回の記事は自身の収益確保のための論ではない。過去の苦い体験に基づいたものだ。
前職では社内のナレッジマネジメントと教育に関わる部門長を兼務し、社内研修の企画実施を行っていた。元々、教育には熱心な会社で全社員とも業務時間の3%程度が教育を受ける時間に割り当てられていた。
だが、ITバブルの崩壊に引きずられ業績が漸次悪化。余裕がなくなり教育の時間が削られ、業務時間へと振り替えられていった。
こうした教育の削減は、即時に反応が出ないところが怖いところなのだ。教育が足りない。提案力の錬成や、プレゼンスキルの鍛錬ができていない。業務の受注率が低下する。
しかし、実際には景気の後退によって業務獲得は確かに難しくなっているので、それがダイレクトに教育不足のためであると断定はできない。断定できないのだが、確かに企画書などを書かせても完成度が高まらない。じわじわと弱体化していく。
その後筆者が職を離れた後、建て直しが図られたようであるが、一度弱った組織を元に戻すのは大変だったろうと推測できる。

■社員教育の実施方法とクリティカルマス

研修の実施方法には、大きく分けて受講者の自薦と階層別の強制参加がある。
教育担当部門がメニューを用意しておき、関心のある社員が自ら手を挙げて参加表明をする自薦型。これは個々の社員、特に意欲のある社員の能力を伸ばすには非常に効果が高い。
しかし、組織全体に対する効果は必ずしも保証されるわけではない。教育で得た個々人の知識や気づきがそのまま業務に活かせるものと活かせないものがあるからだ。
決して好ましいことではないのだが、部下が習得した知識が上司のやり方と異なっていた場合、その活用の機会がなくなってしまうという例も散見される。
そのような問題を発生させないために実施しておきたいのが、管理職レベルの階層別研修だ。管理職といっても、現場の業務に携わるプレイングマネージャ的なポジションに対してである。
重要な教育は、あらかじめ上司にこそ強制的に受講させ、部下の受講に対して理解を形成しておくことが肝要だ。上司から部下に「ああ、おまえが今度受けに行く研修、大変だけど頑張れよ」というような言葉が出なければならないのである。
以上のように、社内で最も効果を発揮する教育方法は、上司と部下のセット、強制と自薦の組み合わせであり、それによってクリティカルマスを突破させるのである。
クリティカルマスとは、本来的にはある商品やサービスの普及率が一気に上昇するための分岐点である。別の言い方をすればティッピング・ポイントだ。
しかし、マスと言うだけに、ある程度のボリュームが実施されなければクリティカルマスは超えない。
ここで困るのが、景気の後退による教育の縮小だ。自薦式の教育は実施回数が減らされても、細々続くことになるが、階層別の教育でそれなりの対象人数を動員するようなプログラムは一気に見送られることが多いのだ。
特に業務に直結した知識習得や、昨今重要なコンプライアンス関連のような研修はまだしも、マーケティングや提案力強化などのプログラムは縮小対象になりやすい。
縮小するのは簡単だ。しかし、前述のようにその影響はじわじわと押し寄せてくる。厳しい環境で自力も落ちてしまうという悪循環は避けるべきなのだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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