“残業代ゼロ”法案にみる政策パッケージの矛盾

画像: Chairman of the Joint Chiefs of Staff

2014.06.19

経営・マネジメント

“残業代ゼロ”法案にみる政策パッケージの矛盾

日沖 博道
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

安倍政権の掲げる成長戦略には様々な政策が含まれるが、大方針または優先度づけが欠如するためか、政策間に矛盾が見られる。

「残業代ゼロ」の賛成派は性善説に基づき、次のように説く。「残業代ゼロとなれば誰もが速く仕事を片付けようとするから、だらだら夜遅くまで残業したり休日出勤したりする人はいなくなる。その分、家庭サービスに精を出すだろう」と。

しかし、「残業代ゼロ」の対象となった30代サラリーマンがどういう働き方をするかは、本人以上に上司および経営者の考え方で左右されるのが現実だ。

無理の効かない40代以上の管理職やまだ仕事を覚え切れていない20代の若手よりも、確実に頼りになる30代の中堅に多くの仕事を振るのが普通の上司の行動だ。ましてや経営者の視点からは、残業代の必要な若手よりも「残業代ゼロ」の人間に仕事を集中させるのが合理的と考えてもおかしくはない。

これまでは残業時間規制があったので歯止めが掛っていたのが、多くの職場でその遠慮がなくなる可能性は高いと小生はみている。すると何が起きるのか。

今以上に30代の中堅サラリーマンは仕事を抱え、さらなる残業・休日出勤を余儀なくされるケースが続出するのではないかと思う。その結果、彼らの妻たちは孤独な子育てを余儀なくされ、2人目の子供を作ろうという意欲は減退するだろう。そうした状況を見ている後輩の女性たちはさらに結婚時期を遅らせるか、結婚そのものに踏み切れずに終わってしまう方も増えるだろう。

当然ながら男性も出遭いの機会が減るうえに、デートする時間も減り、女性を口説くタイミングも逃しかねない。しかも残業代という収入の重要な一部がごっそり減ってしまうので、結婚や新居に向けての貯金もままならないという事態が、より多くの層に広がる恐れが高くなる。

こうした状況は近年の不況下で繰り返され、強化され、晩婚・少子化を加速する主要因となったことは多くの識者の指摘するところだ。

小泉政権や第一次安倍内閣で緩和された労働規制と労働組合の弱体化により、減った正社員をカバーすべく残された従業員がサービス残業を余儀なくされ、こうした構図が強化されたのだ。

皮肉にも、第二次安倍内閣のアベノミクス景気のおかげで賃金アップに向かい、ホワイトカラー層の雇用増も生まれ始めており、この悪循環が減速・解消する可能性も近頃は出てきた。しかしその悪循環を安倍内閣は、「時間規制の適用除外」により再び動かそうとしているのだ。

何といっても日本社会の最大・根本的な課題は晩婚少子化対策だ。最も恐れるべきは、晩婚少子化、ひいては生産年齢人口の縮小がもたらす国内経済の縮小であり(これが確実に見込まれるために企業は国内に投資しなくなっている)、地域社会の崩壊であり、社会保障制度の自壊だ。

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日沖 博道

パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長

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