電子書籍元年に思う~技術進化が「おおきな作品」を生み出すか

2010.05.06

IT・WEB

電子書籍元年に思う~技術進化が「おおきな作品」を生み出すか

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

文芸にせよ、アートにせよ、音楽、映画せよ、「作品が小粒化している」とはよく聞かれるフレーズだ。私たちは技術の進化とは逆に、「おおきな作品」からどんどん遠ざかっているように思える……

貧乏な我が家では、LP盤を何か1枚買ってほしいと親に言い出しづらかった。
すでに解散していたビートルズは20数枚アルバムを出していたが、
私が買ってもらえるのはようやく1枚だけだった。
子供心に本当に悩んだ―――「どれを手にすべきか」。

いまのように自由に視聴ができるわけでなし、
もちろんレンタルサービスがあるわけでもなく、
LPアルバムを買うということは当時リスクのある買い物だった。
(シングル曲だけがよくて、アルバムとしては凡作なものがいつの時代にもたくさんある)

当時、深夜のラジオ番組で毎週土曜の午前1時にビートルズの曲を5曲ずつ、
タイトルのABC順にかけていく番組があった。
(ビートルズの公式録音曲は全部で280曲ほどあると言われている)

私はこの番組をカセットテープに録音して、1曲1曲リスト化していった。
(寝過して録音できなかった週などは落ち込んだものだ)
なにせ、いまのようにウェブで検索をかければ
ビートルズの全曲のリストがコピー&ペーストで手に入る時代ではないのだ。

そうやってビートルズの曲をいろいろと聴き、手と耳で憶えていった。
おかげで英語は一番好きな科目になった。

また、友達同士でレコードの貸し借りもやった。
A君は「THE BEATLES 1962-1966(通称「レッド・アルバム」)」を持っとるんやて、
B君は「WITH THE BEATLES」を買うたらしいで、
C君は「SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND」聴かせたる言うとった……
友達から借りられるものはそれで聴けばいい、
そして半年をかけて熟考して買ってもらった1枚が―――「ABBEY ROAD」。

「レコードが擦り減るまで聴く」という表現があるが、
本当に「ABBEY ROAD」は、レコード溝がダメになるまで聴いた1枚だ。

多感なころだったから1曲1曲を繰り返し聴くたびに
いろいろな発見や感動がいくらでも湧いてきた。

ジャケットの写真を眺めるたびにどんな想像もできた。
いまから思えばちゃちなレコードプレーヤーだったが、
(一応、2つのスピーカーが付いてステレオだった)
そこから響き出す音楽は、姉と一緒の四畳半の勉強部屋を満たし、
私の表皮の細胞を一つももれなくぴーんとそばだたせた。
(たぶん、あれを詩心というのだろう)

モノがない、情報がない―――だからといって、
人間の想像性/創造性は妨げられない。
むしろモノが少ないほど、情報が少ないほど、
想像性/創造性が増し、深まることはじゅうぶんに起こりうる。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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