「アメとムチ」で人をやる気にさせることができるのか?

画像: Tony Aldrich

2010.03.07

組織・人材

「アメとムチ」で人をやる気にさせることができるのか?

松本 真治
有限会社ワースプランニング 代表取締役

皆さんはあの伝説の接遇講師をご存知だろうか。エチカの鏡で取り上げられるや一躍話題になり、今や多くの企業から研修依頼が殺到しているという平林都さんのことである。平林さんの研修風景を見て、「アメとムチ」をうまく使い分けていると大絶賛する人もいるが、果たしてそうだろうか。指導や教育で昔はよく使われていた「アメとムチ」、本当に効果はあるのか?

 最近目や耳にすることが少なくなった「アメとムチ」、ご存知の方も多いかと思うが、漢字で書けば「飴と鞭」である。人の意欲をかきたてたり、思い通り行動をコントロールしたりするときに、望ましいことをしたらアメ(報酬)を与え、望ましくないことをしたらムチ(罰)を与えることである。

 もともとは1880年代のドイツのビスマルクのとった国民懐柔策で、一方では弾圧法規を制定すると共に、一方では国民生活に役に立つ政策を実施したことからきている。鞭を前者に、飴を後者に例えた言葉である。

 日本でも麻生政権時代に麻生首相が「定額給付金支給」を発表した時に、同時に「3年後の消費税引き上げ」をお願いしたことがあった。まさに「アメとムチ」の政策である。その結果は皆さんご存知の通りであるが・・・。
 
 果たしてこの「アメとムチ」」は実際に効果があるのだろうか?「アメとムチ」を使うことで人をやる気にさせるのだろうか?

 行動心理学で「アメとムチ」に関してマウスを使った興味深い実験がされている。マウスをT字型の迷路の常に右側に進むようにしたいときに、右側にクッキー(アメ)を置き、左側には電気ショック(ムチ)を用意してみると、何回かの行動を経ると、常に右側に進むようになる。まさに「アメとムチ」の効果である。

 ところが、電気ショックを少し強めに設定してみると、効果を全く得られなかった。マウスが間違って左に進み、強い電気ショックを受けるとその場でうずくまり動かなくなってしまったのである。右にも左にも進まない、無気力なマウスになってしまったのである。しかも、この実験のマウスはすべてストレス性胃潰瘍を発症していたのだ。

 ムチをおそれてトライすること自体を断念し、リスクを冒してまでアメを取りに行こうとする意欲がなくなってしまうのである。要するに、防衛本能のほうが強く働き、行動そのものを起こす気力が萎えてしまうのである。

 また、先の軽度の電気ショックでも連続して続けていくと、飽きがきて「アメ」がもらえて当然だ、という気持ちになり、行動意欲は停滞し、怠惰な気持ちが芽生えてくる。「アメとムチ」だけではやる気を維持できないのである。

 人間も同じで「アメとムチ」は使い方を誤ると逆効果になるし、うまく使ったとしても一時的な効果しか得られないのである。

 ではどうすれば継続的に人をやる気にさせられるのだろうか?

 人間の行動意欲の原動力となる動機=モチベーションには、外発的モチベーションと内発的モチベーションがある。前者はがんばることで物質的な報酬や評価を得ようとする意欲であり、後者は行動自体に充実感や使命感を感じてがんばろうとする意欲である。

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松本 真治

松本 真治

有限会社ワースプランニング 代表取締役

人材・組織開発コンサルタント。 人材・組織の潜在力を引き出すアセスメント(サーベイ)の企画/開発/運用から本質的課題を抽出し、課題解決のための最適なソリューション(研修・教育プログラム)の設計/運営までのコンサルティング・サービスを展開中。 人/組織が本来持ち備えている力(潜在力)を引き出し、人/組織が自律的で持続的な成長を遂げていく支援をさせていただいています。

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