映画「幸せの1ページ」は誰のため?

2008.09.16

営業・マーケティング

映画「幸せの1ページ」は誰のため?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

マーケティングの要諦は「整合性」である。 ターゲットを明確にし、そのターゲットにいかに魅力的に訴えかけをするのか。そして、その魅力を、製品と価格、販路とプロモーションという要素を組み合わせて提供する。 重要なのは、そのバランスであり、どこか一つだけを突出させても、ましてや安易にその整合性を部分的に変更することは全体に大きな悪影響を及ぼすことになる。

日米の公式サイトを見てみよう。
日本・「幸せの1ページ」 http://www.shiawase1.jp/
米・「NIM'S ISLAND」 http://www.nimsisland.com/
日米の登場人物の立ち位置に注目して欲しい。
「NIM'S ISLAND」では左下に小さくなっているが、DVDのパッケージにもあるように、中央は少女「ニム」だ。対して、日本はジョディーが微妙に前に立ち、なんとなく彼女とのロマンスを感じさせるかのような男性がシルエットとなってバックに回っている。
このことからも、日米におけるこの映画の「ターゲティング」と「ポジショニング」の違いがわかる。

恐らく、この映画のあるべき「ポジショニング」は米国における「NIM'S ISLAND」の「少女の冒険譚」である。鑑賞後に知ったのだが、原作は「秘密の島のニム」という児童冒険小説だというから間違いないだろう。つまり、「引きこもりで潔癖症の冒険小説家」はあくまで脇役。ターゲットも本来「家族向け」であり、「自分を変えたい」に共感する若い女性ではないはずだ。

ではなぜ、このようなことが起きているのか。ここからは全くの推測であるが、少し考えてみたい。
全米公開は今年の4月4日であった。子供にも観せたい家族向け映画としては、日米同時公開をするにしても春休みを外している。では、夏休みに公開するかというと、今年はジブリの「崖の上のポニョ」という強大な競合の存在がある。故に、時期をずらし、ターゲットをとポジショニングを変更して公開することにしたのではないだろうか。
しかし、冒頭記したように、「マーケティングの要諦は整合性」である。チョコレート菓子に例えたように、売る側の都合で一部を変更しただけでは、本来の魅力が失われることになってしまうのだ。

ポジショニングだけでなく、「製品コンセプト」という観点でも考えてみよう。
「誰が」「どのようなシーンで」「どのようなベネフィット」が得られるのを生活者にわかりやすく伝えるのが「製品コンセプト」である。
「幸せの1ページ」は「(若い)女性が」「ちょっと元気がなかったり、何か迷ったりしている時に」「主人公に共感して元気をもらえる」というコンセプトが予告編からは感じられる。
しかし、「NIM'S ISLAND」である実際の内容は、「子供と家族が」「一緒にワクワクするような体験をしたい時に」「映画を観てみんなで楽しくなれる」という内容であった。

この作品は映画であることは間違いない。オススメだ。
しかし、観に行くならば前述の通り、本来のターゲットとポジショニングを知った上で行くことをお勧めする。あくまで「幸せの1ページ」ではなく、「NIM'S ISLAND」として。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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