京都花街の経営学(6)一見さんお断りの背景

2008.07.10

ライフ・ソーシャル

京都花街の経営学(6)一見さんお断りの背景

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

「お茶屋」は、 基本的になじみ客の紹介がないと利用することができません。 いわゆる「一見さんお断り」です。 ですから、紙に書かれた会員規約や会費はありませんが、 お茶屋のビジネスは実質的には、 「会員制のビジネス」 だと言えます。

ただ、面白いのは、

「金さえ持っていれば会員になれるわけではない」

ことです。

花街だけの暗黙のルールを理解しており、
良識ある社会人としてのマナーをわきまえた人間でなければ、
たとえ金持ちでも、お茶屋のお母さんからやんわりと
拒否されてしまうのです。

逆に、ごく普通のサラリーマンであったとしても、
お茶屋のなじみ客になることが可能です。
(遊ぶお金はちゃんと払えなければだめですけど・・・)

この点、高額の会費を設定したり、
一定以上の保有資産や、高い役職にあることを
入会の条件とすることで、

「富裕層」

としてのステータスを誇示させることが狙いの、
他の多くの会員制ビジネスとお茶屋は異なっています。

ですから、なじみのお茶屋を持っていることは、

「あの人は信用できる人である」
「ちゃんとした常識・マナーを知っている見識の高い人である」

といったことを示す証となります。
単なる「富裕層」以上のステータスと言えますよね。

さて、西尾氏は「一見さんお断り」の背景として
次の3つのポイントを挙げています。

---------------------------------------------

1 長期掛け払いの取引慣行

   →債務不履行の防止

2 もてなしというサービス

   →顧客の情報にもとづくサービスの提供

3 職住一体の女所帯
  
   →生活者と顧客の安全性への配慮

---------------------------------------------

1 長期掛け払いの取引慣行

お客さんは、お座敷遊びの際、
現金やクレジットカード等は一切いりません。

後日、お客さん宛に請求書が送られてくる
段取りになっています。

なじみ客ともなると、
京都駅に着いてからのお出迎えのハイヤーや
宿泊するホテル代などを含む京都滞在中の
すべての費用をお茶屋が立て替えることがあります。

この場合、お茶屋が立て替える費用は、
かなりの金額になりますよね。

万が一、お客さんがちゃんとお金を払ってくれなかったら、
お茶屋はとんでもない損失を被ることになります。

したがって、信用できるなじみ客の紹介がないと、
とても新規のお客さんを受け入れることはできない
というわけです。

2 もてなしというサービス

お茶屋で提供されるサービスに「定型」はありません。

お茶屋のサービスは、
顧客1人ひとりの好みに応じて提供される

「カスタマイズサービス」

です。

お茶屋のお母さんは、
基本的にお客さんにどうして欲しいかを
いちいち聞きません。

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有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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