サービスは、なぜ属人化し、再現されないのか ― 見えない価値を放置してきた組織の病理

2026.04.13

経営・マネジメント

サービスは、なぜ属人化し、再現されないのか ― 見えない価値を放置してきた組織の病理

松井 拓己
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

多くの企業が「モノ・価格・効率」という同質化された土俵で消耗戦を強いられている現状をお伝えしてきました。こうした停滞感を打破しようとするとき、多くのリーダーは「現場のさらなる工夫で何とか乗り切れないか」と考えがちです。 しかし、実はこの「現場の工夫に頼る」という発想自体が、組織をさらなる停滞へと追い込む「構造の罠」であることに気づいている人は多くありません。

「あの人がいれば回る」という危うい成功

どの業界の現場にも、いわゆる「ハイパフォーマー=仕事ができる人」が存在します。

• 顧客の微妙な空気を読み、期待値を巧みに調整できる人

• トラブルの火種を未然に防ぎ、なぜかリピートや紹介を次々と生む人

• マニュアルを超えた臨機応変な対応で、顧客を感動させる人

こうした「個人の力」によって、組織のサービス品質は何とか維持されています。しかし、こうした優秀な個人に依存する組織には、必ずと言っていいほど次のような兆候が現れます。

「あの人が異動した途端、顧客からの評価が落ちた」「他のスタッフが真似しようとしても、なぜか同じ結果にならない」「成功の理由を聞いても、本人からは『感覚』や『経験』という答えしか返ってこない」。

企業はこれを「人材不足」や「育成の遅れ」として処理しようとしますが、本当の問題はそこにありません。サービスが属人化するのは、人の能力差のせいではなく、サービスを「設計対象」として扱ってこなかった放置の結果なのです。

なぜ「サービス」だけが設計されないのか

多くの組織において、製品(プロダクト)や基幹システム、あるいは業務フローやKPIは、緻密に「設計」される対象です。しかし、サービスの核心部分である以下の要素はどうでしょうか。

• 顧客がどのような「事前期待」を持って接点に来るか

• 顧客がどの瞬間に価値を感じ、どの瞬間に失望するか

• 顧客との関係性が、時間軸の中でどう積み上がっていくか

こうした本質的な領域は、多くの場合「現場の裁量」という名のブラックボックスに委ねられてきました。その結果、うまくいけば「個人の手柄」、うまくいかなければ「現場の責任」となり、組織としての学習が一切進まない構造が生まれてしまうのです。

改善を重ねるほど、再現性が失われるという矛盾

さらに厄介なのは、真面目な現場が「改善」を繰り返すほど、かえって属人化が深まるという逆説的な現象です。

現場の担当者が良かれと思って「クレームが出たから対応を柔軟に変えよう」「ケースバイケースで最適解を出そう」と奮闘するほど、判断基準は人によってバラバラになり、組織としての「正解」が共有されなくなっていきます。

一つひとつの判断は正しくても、それが組織の「型」として蓄積されないため、いつまでも「現場の背中を見て覚える」という非効率な連鎖から抜け出せません。努力が組織の資産(ナレッジ)にならず、その場限りの対応で消費されてしまう。これこそが、第1回で触れた「努力が報われない構造」の正体です。

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松井 拓己

サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。              【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新

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