かつて、社会で求められる人間像は明確だった。 言われたことを、正確に、素早く、失敗なくこなす人。 知識を多く持ち、スキルに優れ、論理的に物事を処理できる人。 いわば“役に立つ人”こそが、価値ある存在とされてきた。 けれど、今、その前提が根底から覆されようとしている。 ――AIの登場である。 AIはもはや、単なる計算ツールではない。 膨大な知識を持ち、複雑な問題を論理的に解き、精度高く翻訳や文章生成を行う。 「知っていること」や「できること」では、人間はすでにAIに勝てない領域が出てきた。 この変化は、人類にある問いを突きつけている。 “では、人間にしかできないこととは何か?”
今回は同書「在り方 AI時代に求められる人財価値」からの抜粋を期間限定で掲載しました。
序章 なぜ、いま在り方なのか?
「この人と一緒に働きたいか?」
「この人の言葉なら、信じられるか?」
「この人の背中を、追いかけたいと思えるか?」
こうした問いは、履歴書にも評価シートにも書かれていない。
だが、現場で人が人を見極めるとき、実際に判断されているのはスキルや資格よりも“その人の在り方”だ。
かつては、知識や技術、指示の速さや正確さが“できる人”の基準だった。
でも今、技術や情報はあふれている。AIがそれを肩代わりできるようにもなった。
このような時代に求められるのは、誰よりも多くのスキルを持っている人ではない。
「この人が言うならやってみよう」と思わせる人である。
その違いは、何か?
――「在り方」だ。
■ “正しさ”より、“信頼”が人を動かす
これまでの社会は、「正しさ」や「効率性」で動いてきた。
でも今は、どれだけ正しいことを言っても、人は動かない。
むしろ、正論が人の心を遠ざけてしまう時代だ。
たとえば、あなたが上司だとして。
部下が何かで失敗したとき、
「こうすべきだったよね」と冷静に指摘するのは“正しい”かもしれない。
でも、その瞬間、部下の心の扉は静かに閉じるだろう。
なぜか?
それは、「正しい」かどうか以前に、“この人は自分の味方か?”という問いが無意識に働いているからだ。
つまり、信頼できるかどうか。共に歩む人だと感じられるかどうか。
そしてそれは、表面的な言葉ではなく、“その人の在り方”から伝わる。
■ スキルは再現できても、在り方は模倣できない
テクニックやノウハウは学べる。
どんな若手でも、教えられればある程度まで「できるようになる」。
だが、“その人らしい在り方”は真似できない。
誰かのモノマネでは、人の心を打てないのだ。
たとえば、ある若手社員が、いつも誰よりも早く出社し、挨拶し、誰かの手が足りなければ自然に動いている。
その姿に、周囲は静かに影響を受けていく。
「彼がやるなら、私もやってみよう」
「なんとなく、あの人の周りは空気が良い」
そこには、スキルや肩書ではない“人格の信頼”がある。
このように、「在り方」は組織の文化に、チームの空気に、確実に染み込んでいく。
■ 若手こそ「在り方」に出会うタイミング
若手にとっても、在り方は未来を切り拓く最大の武器だ。
スペックや資格の競争は、上には上がいてキリがない。
でも、自分にしかない在り方、自分にしか歩めない物語は、誰にも奪えない。
CHANGE
2008.11.08
2008.11.06
2025.09.29
株式会社アクションラーニングソリューションズ 代表取締役 一般社団法人日本チームビルディング協会 代表理事
富士通、SIベンダー等において人事・人材開発部門の担当および人材開発部門責任者、事業会社の経営企画部門、KPMGコンサルティングの人事コンサルタントを経て、人材/組織開発コンサルタント。
