第三革命の足音:閉じた民主主義の限界

画像: 古代ギリシアの民主主義

2025.05.02

経営・マネジメント

第三革命の足音:閉じた民主主義の限界

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/これまでにも、封建貴族に対する富裕市民の第一革命、資本支配に対する労働者の第二革命があった。そしていま、民主主義に対する排除者の「第三革命」の足音が近づいてきている。/

民主的な企業では、上の方の連中にはだれにでも順番に経営権が回ってくる。いや、そもそもボード(取締役会)そのものが大人数で、みんなの意見を聞いて、だれからも不満が出ないような総意で運営される。ただし、経営者の一員になったとしても、さほど長居もさせてはもらえず、早々に後輩にポジションを譲って、相談役や顧問、もしくは関連会社の重役になって、死ぬまで慰労高禄を食む。20世紀の企業、政党や地方自治、はては趣味のサークルまで、そうやって、「みんな」で仲良くやってきた。

その結果、おそろしいほど頭でっかちの、すばらしい「安定社会」に。日本にかぎらず、米国や欧州も、とにかく戦争の反動で、ただでさえ団塊世代の人口が大きい。現場の実労は、テンポラリーなバイトの若者、困窮している移民や外国で回して、このすばらしい社会をいかに維持するか、大量の御長老たちがしっかり思案して管理している。

彼らが考えるのは、とにかく、この現状の「すばらしさ」をいかにとりあえず明日も維持するか、だけ。どうせボードにいるのも、長くはないのだから、その短い在任期間に利益を落とすようなことがあっては、その後の居残りに差し障りが出る。もっと上の大量の御長老たち全員の顔色を伺い、いっさい余計なことはしない。まずいことは、表面を取り繕って、ツケを下々に回すか、未来に先送りする。まさにババ抜き。それが仕事。

とはいえ、ゲームも終盤にさしかかると、もはやツケの回し先もいよいよ無くなり、それを隠して閉じ込めた金庫がはじけて、請求書が溢れ出てくる。まるで老朽化した下水管のようだ。それをまたとりあえずの応急措置で、どうにかまた先送り。それをごまかすために、なにかそとづらだけ真新しいことをやっているようなフリをして、世間の耳目をケムに巻く。

パラダイムはいじってはならない。いっさいの現状変更は認めない。これが不文律。すでに完全にパレート最適で、改善の余地など無いのだから。ところが、ツケを回して閉じ込めた氷河期世代やホワイトプア、新興国や辺境国にも限界がある。そして、彼らにも言い分はある。体制側からすれば、連中は、「民主的」な組織合議に拠らない「力による変更」を試みる社会秩序の破壊者だ。だが、そもそも彼らは、その民主的な「組織」とやらからは最初から排除され、ずっとゴミ箱のようにツケを回されてきた。

歴史を大きく文明論で見れば、こんなことは何度も繰り返されている。近代だけを見ても、これまでにも、封建貴族に対する富裕市民の第一革命、資本支配に対する労働者の第二革命があった。そしていま、民主主義に対する排除者の「第三革命」の足音が近づいてきている。古代ギリシアの理想と称えられる民主主義からして、盟主アテネに排除されたスパルタその他の国々の怨嗟で崩壊した。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

フォロー フォローして純丘曜彰 教授博士の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。