高齢期の幸福は、「ゴリラ」に学べ。

2025.01.20

ライフ・ソーシャル

高齢期の幸福は、「ゴリラ」に学べ。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

サル化する人間社会と、高齢期の幸福について。

2014年に発刊されて話題になった「サル化する人間社会」(山極寿一・著)は、和を重視して勝ち負けがなく、仲間をいたわり合う「ゴリラ社会」と、序列が厳格で個々の利益と効率を重視する「サル社会」を分け、人間の社会が「サル社会」にどんどん近づいていると警鐘を鳴らしています。

例えば「食べる」という行為について、ゴリラは仲間と食べ物を分け合う一方、サルはまったく異なるようで、山極先生は毎日新聞の連載で次のように述べておられます。

「サルの食事は人間とは正反対である。群れで暮らすサルたちは、食べるときは分散して、なるべく仲間と顔を合わせないようにする。(中略)食物が限られていれば、仲間と出くわしてしまうことがある。そのときは、弱い方のサルが食物から手を引っ込め、強いサルに場所を譲る。サルたちは互いにどちらが強いか弱いかをよくわきまえていて、その序列に従って行動する。それに反するような行動をとると、周りのサルがよってたかってそれをとがめる。優劣の序列を守るように、勝者に味方するのである。強いサルは食物を独占し、他のサルにそれを分けることはない。サルの社会では、食物を囲んで仲良く食事をする光景は決して見られない」

山極先生が指摘されるように、昔の日本は「ゴリラ社会」のようでした。今のように十分にあったわけではない食べ物を家族で分けあったり、ご近所にはお裾分けをしたりといった習慣もありました。もちろん食べ物の話に限らず、職業や経済的な面で上下や優劣をつけず、それぞれの違いを認め、助け合いがあって、協力して年中行事や冠婚葬祭も行われ、地域には確かな共同体が存在していました。

その共同体は、近年どんどんと崩れていき、皆が「個」となりバラバラになってしまい、その「個」に勝ち組・負け組という色分けがなされ、負け組は自己責任だと突き放されて、勝ち組はますます勝って格差がさらに拡大し、テレビでもネットでも、独り勝ちをしたボスザルのような人たちが闊歩(かっぽ)して、それが褒めそやされている、まさに「サル社会」が出現しています。

そういえば、タワーマンションの上層階に住む人は下層階に住む人々を見下し、下層階に住む人たちは「タワマンの下に住んでいます」と卑下するのだそうで、それはまるで“猿山”のようです。

●幸福なのは、ゴリラ的なシニア
中高年の中には、いつまでも若者と張り合い、経験や知恵の不足を理由に若い世代を下に見て、自慢話や自分の話ばかりをしゃべりたがり、常にいわゆる「マウント」を取ろうとする人がいます。同世代に対して、地位や名誉やお金をちらつかせながら上に立とう、勝とうとする人もいます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

フォロー フォローして川口 雅裕の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。