欧州では一般的な「高齢者のプライマリーケア」が日本で期待できない理由

2025.06.02

ライフ・ソーシャル

欧州では一般的な「高齢者のプライマリーケア」が日本で期待できない理由

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「かかりつけ医」は意味も機能もあいまいなまま・・・。

「プライマリーケア」とは、「身近にあって何でも相談に応じてくれる、総合的かつ継続的な医療」といった意味の言葉で、健康状態の把握やアドバイス、応急的な処置・治療、訪問診療のほか、状況に応じて専門医を紹介するといった機能などを担うものです。特に高齢者については、病気になると重くなりやすく、元に戻るにも困難を要するので、初期の段階で何でも相談できるプライマリーケアがより重視されるようになってきました。

しかし実際には、何でも診ることができる医師は多くないため、「専門ではない」と断られたという話はよく耳にしますし、調子が悪いけれどどこに行けば診てもらえるか分からない、急に行ったら「先生がいない」「今日は忙しい」と断られる……というようなケースもあります。

欧州の国々では「一般医」「家庭医」(General Practitioner)といった制度があり、プライマリーケアの仕組みが確立されていますが、日本では意味も役割も曖昧な「かかりつけ医」という名前だけが長年、そのまま放置されており、プライマリーケアが行き届いているとはいえない状態です。


●プライマリーケアは、二つから成る
ただし、プライマリーケアを医療任せにしていいのかどうかは、考えてみる必要があります。

例えば、ちょっとした体調不調があったとき、その話に耳を傾けてくれ、自分たちの経験を含めてさまざまな情報提供などをしてくれる仲の良い人たちが近所にいれば、医者ではなくても大いに助かるでしょう。お互いのことをよく分かっているのも心強く、その点では医者よりも上です。

しょっちゅう会って普段の様子を知っていれば、ちょっとした異変にも気付いてくれる可能性が高くなるので、早期発見にもつながります。健康づくりのための運動や交流や食事などに関する良い生活習慣も、1人でいるよりも良好な人間関係がある方が、強化・継続を期待できます。

そう考えると、昔にあったような地域コミュニティーは、プライマリーケアの役割を担っていました。近隣の人たちがお互いをよく知っていて、あいさつをし、立ち話をし、一緒に食べ、笑い、年中行事や冠婚葬祭に力を合わせ……といったことの一つ一つが、すべてプライマリーケアだったという気がしてきます。

者に関する研究活動を行う筆者が、作家で僧侶の家田荘子さんとの共著で2025年3月に出版した老い上手」(PHP出版)の中でも詳しく触れましたが、近年の地域コミュニティーの崩れは、プライマリーケアの喪失につながっており、高齢期の心身の健康を危うくしているという面があります。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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