高齢者にとっての、孫とペットとロボットについて。
先日、ある高齢女性に、ご自身が詠まれた短歌を見せていただく機会がありました。「楽しみは 年に三回 孫が来て 三日以内に帰りたるとき」。思わず笑ってしまいましたが、高齢者にとっての孫の存在というものがよく分かります。
孫はとてもかわいいし、会いたいと思うが、あまり長くいられると疲れてしまう。盆、正月、ゴールデンウイークと年に3回くらい来て、2泊して帰ってくれるくらいがちょうどよい、という本音が表れています。(ちなみに、「たのしみは」から始まって「とき」で終わる形式は、幕末の歌人・橘曙覧の「独楽吟」から取ったものです)
孫はかわいいけれど、年も違えば話が合わないし、体力が違い過ぎるから一緒に長くは遊べない。おいしいものを食べさせよう、何か買ってあげよう……などと思えば思うほど、いろいろと気も使うでしょう。普段とは全く違う日が何日も続けば、「そろそろ帰ってくれないかな」と思ってしまうのも仕方ありません。「帰った後は、ちょっとは寂しさもあるけれど、心からホッとする」という話は、他の人たちからもよく聞きます。「1週間もおられたら、疲れて死にそうになるわー」と笑っておられた人もいました。
●孫とペッットの違い
「話が合わない(意思疎通が難しい)」「体力がかなり違う」という点で、孫とペットはよく似ていますが、ペットに対して「3日以内に帰ってほしい」「疲れて死にそう」などとは思いません。2010年の「動物愛護に関する世論調査」(内閣府)によれば、70歳以上では約24%の人がペットを飼育していますし、ペットを「本当の家族」と考えて暮らしている人も多くいます。
ペットを飼えば世話をしなければなりませんし、飼うには責任が伴います。「旅行に行けない」といった行動の足かせになることもあります。また、寿命が来ればその死を見届けなければなりません。高齢者には「私が先に死んだら」という不安もよぎるでしょう。飼うには場所を取りますし、エサ代もかかります。近所や周囲にペットを嫌がる人がいれば、軋轢(あつれき)の原因になるかもしれません。なのに、「ペットがいるから日々、疲れ切ってしまう」という声は聞きません。
高齢者にとっての孫とペットの違いは、なかなかに不思議です。「孫は自分よりもはるかに長生きするが、ペットは自分と同じで命はそんなに長くない」という思いから、より愛おしい気持ちが強くなるのでしょうか。孫は自分を超えていくし、自立して生意気になっていきますが、ペットはいつまでも自分に依存し続けるので、よりかわいく感じるのかもしれません。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。