講談社フェーマススクールズ(KFS)の熱量

2024.03.29

ライフ・ソーシャル

講談社フェーマススクールズ(KFS)の熱量

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/米国 Famous School の教育指導ノウハウを1968年に日本の講談社が買って作ったのが、講談社フェーマススクールズ。その最盛期には、日本だけで一万四千人もの受講生を抱えた。絵本をはじめとして、いまや一大イラストブーム。イラストが単体で作品として画廊に並び、高額で取引される。そのプロたちの中には、元インストラクターや、最後までがんばった「卒業生」は、意外に多い。/

そして、戦後は、これらに商品紹介雑誌が加わった。戦争で男性が戦場に駆り出されたために、女性たちも仕事に就くことが多くなり、軍隊や職場での交流で、自分たちの知らなかった生活様式や新商品の話題が広まる。硬派の文芸書や専門書の出版社とはべつに、大衆向けの娯楽雑誌社が一気に隆盛。そして、短編小説のイメージ、モダンな生活や商品を「説明」するために、イラストがここで大量に必要になった。

ところが、イラストレーターがいない。もちろん戦前から美術学校はあった。だが、それらは伝統的なアカデミックな絵画や彫刻の製作を教えるところで、建築やデザインですら埒外だった。だから、セルフメイドのイラストレーターは、大量印刷される雑誌とともに、各種製造メーカーのポスターでの広告宣伝などのために、引っ張りだこで、とてつもない金額を稼ぎ出した。自分たちがいくらがんばっても膨大な仕事の需要に追いつかず、むしろそのノウハウを後進たちにも教えて、業界全体をさらに押し上げることが求められ、娯楽雑誌社もそれを望んでいた。「アーティスト人生がきみのものに! 魅力的でカネになるぞ!」、ノーマン・ロックウェル本人が顔を出して、そう広告した。

しかし、状況が変わってきたのは、70年代だ。テレビが出現し、娯楽小説はドラマに、広告宣伝はCMになっていく。雑誌も大衆向けは写真やコミックが中心になり、ミステリやSFも高尚な長編に人気がシフト。「説明」のためのイラストは需要が急減して、せいぜいページの息抜きに、空白に描き入れられるようなものしか残らない。通信教育の Famous School も、出口を塞がれ、コースを「修了」してもプロになれないじゃないか、と不満続出。それで、ほかの事業まで手を拡げて、1972年にはもう「会社」として倒産してしまっている。

日本でも、事情は大差なく、戦後の説明的イラストがダメになった時期にKFSは規模を拡大してしまった。ところが、ここに、喰えないプロの絵描きたちが流れ込んだ。美術学校などで本格的な絵画を学んだものの、マンガなどの大衆文化の隆盛で、一部の有名作家を除いて,富士山に水車小屋、というような均一凡庸なものを大衆デパートのトイレ前の暗い階段で売るような状況。しかし、米国システムをそのまま導入したKFSは、彼らにケタはずれの指導料を出してくれた。

もっとも、甘くはない。それこそ米国で喰い詰めたプロの元有名アーティストがやってきて、まずインストラクターたちを徹底指導。生ぬるかった日本の美術学校をはるかに越える商業水準の作品作りを教え込まれる。つまり、まずインストラクター自身が受講者と同じ課題にチャレンジして、これにつねに合格していかないと、仕事も、次年度の契約更新も無い。それゆえ、KFSは、日本人インストラクターたち自身が、自分の技術、自分の情熱を根本から見直すボイラーになった。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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