​東大の学費値上と工学債

2024.06.27

経営・マネジメント

​東大の学費値上と工学債

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/文系その他の学問でカネが儲かるわけもなく、健全化という意味では、むしろ本業に不要の資産を処分して、財務圧縮を図るのが穏当。いくら学費を値上げしたところで、これに逆行してやたら肥大化し、資産と費用を食い潰し続ける工学系を支えられるわけがない。つまり、早急に工学部を東大から分離して独立採算にしないと、本来の東大の方が潰れてしまう。/

学費値上は反対だ、というのは、わかりやすい。だが、藤井輝夫総長を吊し上げてどうなるものでもない。というのも、この問題には、もっと大きな背景がある。

東大総長は、慣例的に理系と文系のたすき掛けで選ばれてきた。しかし、2005年、法人化された直後、法学系の佐々木毅が再選に打って出たものの、これを工学系の小宮山宏が破り、一気に大学改革が始まった。任期が4年から6年に延びた2009年の選挙では、再び法学系の濱田純一が奪還したが、小宮山残党と激しい争いを始め、2015年には、小宮山の子分の工学系の五神真が勝って産業界との結びつきを強め、2020年、小宮山が選考会議議長になって、次の支配も狙い、予備選で一位だった医学系の宮園浩平にケチをつけて引きずり下ろし、強引に予備選八位の工学系の子分、染谷隆夫を三人の最終決戦に上げる。が、最終的に、妥協の産物で工学系の藤井輝夫が2021年からの総長になった。

小宮山・五神が残した置き土産が、東大債。2020年に200億、2021年に100億が発行され、その後も1000億まで、毎年発行される予定になっていた。小宮山の目論見では、これを「受託研究」で償還する、とのことで、このカネは、つまり実質的には工学債なのだが、素粒子研究のハイパーカミオカンデの建設などに投入されことからもわかるように、もともとまともな「受託研究」ではなく、結局、実質的には国家プロジェクトの肩代わりで、収益の見込みは無い。

私学であれば、その法人設立時と同様、フローの授業料の他に新規の入学生から入学金や寄附金を集めることで、純資産(自己資本)を積み増してきた。ところが、東大は、ずっと官公庁扱いであったために、フローの年度予算でしか財務経営を考えて来ておらず、法人化でストックの貸借対照表を起こしてみたら、数字上の総資産は1兆5000億、純資産1兆円とやたら巨大なのに、ほとんどが収益を生まない死にガネの化け物で、手元の流動性がほとんど無い。毎年、慶応が100億、京都大学は200億もの寄附金を得ているが、東大はあれだけ規模なのに150億しか集まらない。

それで考え出されたのが、東大債。期限40年で金利0.853%だから、国債にちょっと色がついた程度の超長期で、自分たちが死んだ後、40年後にまた発行してリファイナンス(借り換え)していけば、永遠に原資償還することなく、実質的には純資産と同じ扱いでいける、ということなのだろう。ただ問題は、東大の財務状況だ。海外のまともな大学でも大学債の発行実績はあるが、時勢次第のフローの受託研究だけではなく、大学として特許などのストックの手堅い潤沢な収益源を持っている。ところが、東大の場合、収益2664億に対し費用2715億で、51億の万年赤字体質。特許収入なんか10億にも満たない。いくら東大債が低利とはいえ、すでに発行済みの分の毎年の金利3億円すら払う余裕などない。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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