アリストテレースの形而上学:自然の階段

2024.03.14

ライフ・ソーシャル

アリストテレースの形而上学:自然の階段

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/アリストテレースの研究は、論理学から生物学、倫理学や政治学、演劇論まで多岐に渡っていますが、この《自然の階段》という形而上学において、すべての分野は一つの体系としてまとめられています。そこでは、彼が言うように、ムダなもの、ムダな研究はひとつもありません。/

形而上学において、アリストテレースは、ソークラテース・プラトーンの《対論法(ディアレクティケー)》に対して、《窮論法(アポレティケー)》という研究方法を用います。それは、諸説を収集し、道(ポレイア)のない(ア)状態にまで問題を凝縮して、その混迷の原因を分析することで問題を解決しようとする術(ティケー)]です。このために、彼は彼以前の古い自然哲学者たちの諸説も広く学びました。

先行する諸学説を集め、その混迷から解決を模索する窮論法は、現代においてもアカデミックな論文の標準手法です。また、アリストテレースの著作は、この窮論法を使うために先行学説を多く収拾し引用していることでも、彼以前の諸学説を知るために資料として貴重です。

アリストテレースはまた、古来の文献だけでなく、自分自身の知見、さらには王帝アレクサンドロスの報告をふまえ、博物学的な関心をもって、自然や社会の多様性にも目を向けます。これらも言わば一種の窮論であり、そこに多様性があるのは、その多様性を生じさせた共通の原因があるはずだからです。

ここにおいて、彼は〈作動因〉-〈目的因〉の因果連鎖を問います。すると、その連鎖の最初、アルケーは、論理的に、動かずして動かすもの、〈不動作動体〉でなければなりません。それらが自分は動かず他物を動かすことができるのは、それが完全なるものとして、〈作動因〉であるだけでなく、究極の〈目的因〉でもあり、他物を魅了してみずから動いていくようにさせるからである、と、彼は考え、それらこそが〈神々〉だろう、と考えました。

これらに次ぐのは、動きはするが動かないもの、つまり、回転運動をするものでしょう。すなわち、それらは天空の恒星です。そして、さらにその次には、回転運動でも天空全体をさまよう惑星があり、太陽と月があります。これらの星々が天空にあって永遠不変であることから、地上でさまざまな形相に変化する〈プローテ・ウーシア〉とは異なる素材、〈アイテール(澄体)〉でできている、と、アリストテレースは考えました。

このアイテールの下が、地上のさまざまな諸物の世界です。ここにおいて、アリストテレースは、上から〈火〉〈気〉〈水〉〈土〉の順の層になろうして、それぞれの本来のところへ直線的に運動します。しかし、現実は、天空の星々の影響によって、これらの物質がさまざまに混合し、多様な諸物になります。その中でも、人間を頂点に、動物、植物、鉱物がまた順に層を成しており、それぞれの種は不変不滅で、進化も退化もしませんが、これらの層の間にも、動物とも植物ともつかないものや、植物とも鉱物ともつかないものも、《自然の階段》として、とぎれなく存在している、とされました。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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