心豊かな高齢期を過ごすために必要な「3つの基地」

2023.04.13

ライフ・ソーシャル

心豊かな高齢期を過ごすために必要な「3つの基地」

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

特に高齢男性の社会参加を促すには・・・。

高齢男性には、安全基地を持たない人が多くいます。現役時代は、何かうまくいかないことがあっても、会社での肩書や部下たちからの敬意、家庭での存在感や子どもたちからの尊敬といったものが安全基地機能を果たしており、心の平穏を維持することができました。

ところが、定年退職や子どもの独立によって、これらは消えていきます。同じように、安心基地として機能していた同僚や上司からの期待、称賛、励ましはなくなり、頑張りの源泉となっていた子どもたちの存在もなくなってしまいます。その昔なら、地域コミュニティーや3世代同居という家族形態も、安全基地や安心基地として機能していたでしょうが、今や望むべくもありません。

安全基地も安心基地もなくなったら、探索(新しいことへの挑戦)をしなくなるというのは子どもだけでなく大人も同じであり、だから、高齢男性が閉じこもりがちで社会参加や交流の場にあまり出てこられないのではないかと考えられます。

また、米澤教授は著書「事例でわかる! 愛着障害―現場で活かせる理論と支援を」(ほんの森出版)で、次のように述べています。

「3つの基地ができていないという基地欠如感は、人間関係の問題、集団適応の問題、規範行動からの逸脱、攻撃性と関連しています。(中略)愛着障害こそが、攻撃性・攻撃的行動の原因であること、この共通理解も広げていく必要があります」

だとすると、“キレる高齢者”や“クレーマー高齢者”の問題も、愛着障害の視点や「3つの基地機能」から考えてみるべきなのかもしれません。

高齢者の交流の場は近年、非常に増えました。行政による“通いの場”づくりが盛んに行われ、カルチャーセンターでは高齢者向けの内容が多くなり、シニア対象のスポーツクラブもあちこちにでき、自分たちで団体やサークルを立ち上げる人も少なくありません。ただし、それらはいずれも「探索基地」であって、社会変化に伴って失われてきた安全基地や安心基地の欠如は、放置されたままといえます。

「3つの基地機能」の理論に従えば、安全基地や安心基地がないままでは、交流の場への参加に腰が引けている高齢男性に交流を促しても効果はありません。その前に、高齢男性のストレスを癒やし、解消する場や関係、楽しく前向きな会話が成り立つ場や関係をどのようにして提供するか、安全基地や安心基地をどのようにつくっていくかが本質的な課題だといえるでしょう。

優れた高齢者住宅で、それ以前とは見違えるように人と交流するようになった高齢男性を筆者は何人も知っていますが、それは、そこに安全基地や安心基地の機能が備わっていたからだろうと思います。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「高齢社会、高齢期のライフスタイル」と「組織人事関連(組織開発・人材育成・人事マネジメント・働き方改革など」)をテーマとした講演を行っています。

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