北極の秘密基地にて

画像: photo AC: サンサンさん

2019.12.17

ライフ・ソーシャル

北極の秘密基地にて

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/もう時間がないのに、あの人は起きてこない。こまった二人は思案を巡らす。/


「ちっ、やっぱりダメだよ」
「こまったな。起きてこないか」
「ああ。もうイヤだって。自分のところのおもちゃなんか、文字どおり、子どもだましで、だれも喜ばないし、だれも救えないって」
「たしかに時代が変わりすぎたな。あいつがそう言うのも、よくわかるよ」
「素朴なのも、悪くないと思うんだけどな」
「でも、お年玉だって、いまどき何万なんていう子がいるくらいだから」
「いや、それならまだいい。あいつ、行くと、涙が出るような家がいっぱいで、つらいって」
「どういうこと?」
「クリスマスなのに、親もだれもいないんだってさ」
「ああ、ネグレクトっていうやつか……」
「いや、そうでなくても、年末の仕事が忙しくて帰れないんだろ」
「子どもはもちろんだろうけど、親もつらいなぁ」

「で、どうする?」
「うーん、早くしないと明日になってしまうよな。やっぱりムリか?」
「じつは、あいつ、もう飲んじゃったみたいなんだよ。酒くさいんだよ」
「えーっ! それはダメだろ」
「いくらオートパイロットがついていても、飲酒飛行はなぁ……」
「だから、今晩はミルクじゃなきゃダメなんだよ!」
「あいつ、弱いくせに、ガソリンみたいに強い酒が大好きだから」
「まったく北欧のやつは!」
「で、どうするよ」
「どうするったって、どうしようもないだろ」
「いや、だって、子どもたち、待ってるぜ」
「まあ、そうなんだけど……」

「あのさ、正月の準備の方はもうできてるし、おれたちで行くか?」
「え?」
「あいつの代わりにさ」
「代わりったって、おれ、トナカイのソリなんか運転したことないぞ」
「うーん、おれも、ネズミの荷車なら、持っているんだけどな」
「おまえ、シンデレラじゃないんだから」
「タイ釣り漁船よりましだろ」
「ほら、そういえば、あいつ、寿老人が鹿を飼ってただろ」
「ああ、そうだ、あいつ、呼んでこよう。鹿のソリなら、なんとかかっこがつくな」
「だけど、三人って、変じゃないか?」
「いや、もともと東方の三博士の贈り物の話なんだから、三人でいいんだよ」
「けどなぁ、おまえ、ハンマー持ってるし、強盗とまちがえられないか?」
「ハンマーじゃない、打出の小槌だ! それを言うなら、おまえ、魚くさいぞ」
「いや、だって、おれ、タイがマストアイテムだから」
「おまえ、それ、置いてけよ。冷蔵庫、ないのかよ」
「塩で締めてあるから、痛まないんだよ」

「なんにしても、米俵とタイと団扇じゃ、変だよな」
「ああ、たしかに町内会の夏祭りの景品みたいだ」
「だいいち、そんなの、どれも子どもたちが喜ばない。なんか、ないかな?」
「布袋さんの袋、あれ、いろいろ入ってたぞ」
「じゃ、プレゼントのことは、あいつに頼もう」
「いっしょに行くって、言うぜ」
「ま、いいんじゃないか」
「だけど、四人ってさ、なんとも験が悪い」
「そうか? 験担ぎなら、福禄寿も入れたらどうだ? あいつは鶴亀で、めでたいぞ」
「デブ三人と年寄二人で、真夜中にだいじょうぶだろうか。途中で妙なやつらに絡まれたりしないだろうか」
「それなら、毘沙門天も呼ぼう」
「それこそ、あいつ、武装しているぞ。警察に捕まるぞ」
「いや、だから、コスプレということでさ」
「真夜中に?」
「ほら、クリスマスだから」
「クリスマスは、ハロウィーンとは違う」
「じゃぁさ、鳴り物も付けたらどうだろう?」
「ああ、弁財天のねぇさんか。あの人、こういうの、好きそうだな」
「ぜったい好きだな。彼女の友だちも引き連れて、みんなでぱぁっと!」
「そりゃいいわ。みんなでサンバとか踊りながらさ」

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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