父娘で繰り広げた委任状争奪戦から約3年半。久美子社長の「アンチフォーカス戦略」が大塚家具にもたらしたのは業績悪化と急速な資金繰りの悪化である。今回の矢継ぎ早の提携策には派手さはあっても根本的な経営立て直しにはつながらない。打つべき手は他にある。
先日、大塚家具は日中間越境ECを手掛けるハイラインズ社などを対象に約38億円の第三者割当増資を実施し、さらに38億円の新株発行権を割り当て、合計74億円ほどの資本を調達すると発表した。昨年12月に業務提携を発表した中国の家具販売大手・イージーホームは今回の増資には加わらず(彼ら自身が上場目前なので、タイミング的に難しかった模様)、次のタイミングでの増資先になりそうだ。
今回の増資は急減していた手持ち現金を補うことには貢献するが、根本的な戦略修正につながるかは疑問だ。TVのインタビューに応じていた大塚久美子社長によると、この後イージーホームとの提携を強化し中国での販売に力を入れるようだ。
確かに中国市場は魅力的だが、海外販売は大塚家具自身が前面に立って展開できるのかが不明だ。多少は大塚家具が企画・デザインする高級家具をイージーホームに売ってもらえるだろうが、そのボリュームは保証の限りではない。将来の大株主・イージーホームに首根っこを押さえられ、高級家具のデザインや売り方のノウハウを教えて終わり、という可能性も捨てきれない。ハイラインズとの提携により越境ECで売れる家具なんてたかが知れている。
さらにこの増資と共に伝えられた同社の発表では、ヤマダ電機との業務提携も進めるそうだ。苦戦している国内市場向けにはむしろこちらが再建方策の中心のようだ。提携内容がまだ明らかになっていないので、それがどれほど有効なのかインパクトが大きいのかは全く分からない。
注)ヤマダ電機はこの数年、住宅(旧エスバイエルホーム)やリフォーム(ナカヤマ)、水回り(ハウステック)など住まい関連に注力してきた経緯がある。今回の提携はヤマダ電機側から見れば「ようやく駒が揃った」ということだろう。
ここで改めて、大塚家具にとって業績回復の決め手になるようなビジネスがこの一連の提携策から生まれるのかと訊かれると、正直、首をかしげざるを得ない。なぜなら大塚家具にとって最大の市場である国内実店舗でのマーケティング・販売戦略の修正がなされていないからだ。
この数年の業績悪化は明らかに久美子社長の中途半端な戦略が招いた経営危機だ。多くの人が誤解しているが、久美子社長が打ち出した戦略はイケアやニトリの後を追っての「低価格戦略」ではない。元々大塚家具が得意としていた高級家具路線に加えて中級価格帯向けにも拡充する「拡張戦略」なのだ(図1参照)。「アンチフォーカス戦略」といって差し支えない。
経営・事業戦略
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
世界的戦略ファームのノウハウ×事業会社での事業開発実務×身銭での投資・起業経験=実践的な創業の知見を誇ります。 ✅足掛け35年超にわたりプライム上場企業を中心に300近いプロジェクト=PJを主導 ✅最近ではSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)PJの一つを支援 ✅以前には日越政府協定に基づくベトナム・ホーチミン市での高速都市鉄道の計画策定PJを指揮 パスファインダーズ社は少数精鋭の経営コンサルティング会社です。事業開発・事業戦略策定にフォーカスとした戦略コンサルティングを、大企業・中堅企業向けにハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は中小企業向け経営戦略研究会『羅針盤倶楽部』の運営事務局も務めています。特に後継経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/