佐川喚問のコミュニケーション的評価と江戸川乱歩「心理試験」

2018.03.28

開発秘話

佐川喚問のコミュニケーション的評価と江戸川乱歩「心理試験」

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント

「刑事訴追の恐れがある」繰り返しこの呪文を唱えることであらゆる情報開示を拒否した佐川前国税庁長官。唯一すらすら話せた内容は「首相や官邸など、指示はない」ということだけ。この証人喚問から得られるものはなかったのでしょうか?

1.キョドった中年男の皮をかぶった切れ者
小柄な下がり眉のおどおどした中年男性。落ち着きなく着席しつつ、キョロキョロと視線が泳ぎ、激しくまばたきを続ける様子は、明らかに緊張感を漂わせた不安げなたたずまいで証人喚問は始まりました。

「この深刻な表情は、もしや真相をぶちまける覚悟を決めたものなのか?!」とも取れる悲壮な前長官。しかし結果は真逆。最後までエリート官僚としての「仕事」を貫き通し、余計な言質を取られることなく、政府に有利なことのみ断言。問題となる部分はすべて証言拒否を貫いたのでした。

財務省や政府の中からは「スーパー官僚」、「100%仕事をまっとう」との高い評価の声も出るなど、シッポを積ませないノラクラ答弁は防御する政府側と、「全く何にも答えていない」、「国会軽視」と全否定する追及側の真っ二つに評価は分かれました。少なくとも、言質を取られずにあれだけの大舞台を勤め上げた前長官のプレゼンテーション能力は、切れ者の評価に反しないものといえるかも知れません。


2.コミュニケーションとしての評価
私はいくつかのマスコミから取材を受け、午前午後衆参両院での証人喚問をフルに見ていましたが、証人喚問開始前のおどおどした姿は、喚問開始によってどんどん落ち着きを増していきました。さすがにプロ官僚の中のプロかんりよ。答弁はそつなく、また肝心の部分をすべて「訴追の恐れ」を理由として回答拒否するという、恐らく事前からの作戦通りに進行しました。

特に重要だったのは、トップバッターだった政府自民党の丸川参議院議員の「安倍首相・昭江夫人・麻生財務大臣・今井総理秘書官といった政府高官の関与を全否定した部分です。丸川議員の「仕事」はこの点について、佐川氏から全否定の証言を導き出すことです。もっとも明確な指示など無いからこそ「忖度」なのであって、「明確な指示が無かった」という証言そのものにそもそもどんな意味があるのかという根本的疑問は何も解消されてはいませんが。

一方野党側の斬り込みにはすべて「訴追の恐れ」で具体的回答を拒否します。喚問が進めば進むほど佐川氏の落ち着きは増しているように見えます。私は「(佐川氏の)プレゼンテーション能力」と表現しましたが、それは用意したメッセージを伝えることが今回の役割だと認識して進めていると見たからです。

ただしこれはコミュニケーションとしての評価ではありません。言いたいこと、伝えたいことを伝えるのはプレゼンテーションであり、コミュニケーションはその先にさらに「相手」の納得を伴う必要があるからです。


3.江戸川乱歩「心理試験」
作家・江戸川乱歩の大正時代の小説に「心理試験」というものがあります。まだウソ発見器など無かった当時、殺人事件の犯人が、判事の質問に答える様が描かれています。犯人は完璧な準備をして心理試験に臨み、それもきわめて自然な様を演じます。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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