知られざる、金沢工業大学の巧みなマーケティング戦略

2016.06.27

営業・マーケティング

知られざる、金沢工業大学の巧みなマーケティング戦略

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

金沢工業大学といっても、ご存じない方が多いかもしれない。名前の通り、金沢市にある工業大学である。地方の、私立の、単科大学を、わざわざ取り上げる理由は、その巧みなマーケティング戦略にある。少子化により大学淘汰が加速する時代である。大学もマーケティング戦略の巧緻により、勝ち残りが決まる。

なぜ、地方の、私立の、工業大学が、それほどまでに高い評価を得ているのか。答えは、マーケティング戦略にある。KITはいち早く、1995年の学長交代と同時に大胆な大学改革をスタートした。当時は少子化など、まだ影も形もない時代である。KITも定員の10倍程度となる1万人の志願者を集めていた。けれども、その時点でも一つ確定していた未来が見えていた。18歳人口の将来予測である。

1995年に18歳を迎える子どもたちは、1977年生まれである。その数は、およそ180万人ぐらいいた。ところが、1977年から1995年までの間の出生数の推移を見れば、この18年間で50万人ぐらい減っている。18歳人口減、すなわち少子化は、今ほど騒がれていはいなかったものの、当時から既に明らかな傾向が出ていたのだ。

マーケティングの基本のキ、PEST分析の中でも、将来人口推移は確定した未来である。そこでどれだけロングレンジで物事を見るかによって、戦略の立て方は変わってくる。

PEST分析で考えた20年後の世界

95年、KITが打ち出したのは「学生主役の大学」である。学生自ら学ぶ教育を実践することで『社会が求める』「自ら行動する技術者」の育成を目指す。そのために、さまざまな環境整備に尽力してきた。

例えば、365日24時間オープンの自習室であり、数理工教育研究センターである。いつでも大学で学べる自習室を用意し、教育センターでは授業でわからなかった点を先生に教えてもらうことができる。センターには、学生に対応するために、教員が数十人チューターとして待機している。

理系大学であるから、数学、物理、化学の基礎を徹底する。KITは偏差値評価で見れば、50をやや超えるレベルだが、実はこのクラスの理系の学生が、もっとも伸びしろがある。そこに丁寧な数理教育を施すことで、学生たちは「わかる」歓びを味わう。

さらに、工学系大学ならではのシステムとして「夢工房」がある。これは講義で学んだ知識や培った技術を使って、実際に「ものづくり」を実現できる仕組みだ。ロボコン参加をはじめとして、学生たちが立ち上げるさまざまなプロジェクトには大学からの資金援助がつく。机上の学問だけではなく、学んだ成果を実際に活用する力こそは、エンジニアとして企業が何より求める力である。

まさに社会の要請に応える教育を行った結果が、高い就職率となって表れている。KITは、リセマム発表の就職率ランキング2015において、卒業生が1000人以上の大学でベスト1、その就職率は96.1%である。

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