「がん」は、いつまで不治の病であり続けるか

画像: Photography by: Jeshu John

2016.05.04

ライフ・ソーシャル

「がん」は、いつまで不治の病であり続けるか

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

私たち日本人の、死因第一位はがんである。年間約30万の方が、がんで亡くなっている。また生涯では、男性の2人に1人が、女性なら3人に1人ががんに罹ると推測されている。何より、がんが恐ろしいのは、発病すると完治する可能性が低いことだ。けれども、あと何年かすれば、こうした状況が大きく変わる可能性が出てきている。

皮膚がんの一種メラノーマと肺がん(正確には非小細胞肺がん)の特効薬が開発されたのだ。「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」と呼ばれる免疫薬である。メラノーマではオプジーボにより、末期がんの患者の22%でがんが消滅したとの報告もある。

免疫薬オプジーボと従来の抗がん剤では、がん細胞に対する働き方がまったく異なっている。抗がん剤は、その名の通りがん細胞を直接攻撃するものだ。抗がん剤の問題点は、薬剤ががん細胞だけにピンポイントで効くわけではないこと。そのために抗がん剤を投与されると、体のあちこちで副作用が起こる。しかも、がん細胞はいずれ抗がん剤に対する耐性を持つようになる。

これに対してオプジーボは、がん細胞に対して直接働きかけるわけではない。オプジーボは、本来人の体が備えている免疫機能を復活させる薬剤である。がん細胞は、人の免疫機能を阻害するメカニズムを備えている。これにより免疫細胞による攻撃を免れている。

そこでオプジーボは、このがん細胞が免疫機能を阻害するメカニズムに働きかけることで、免疫細胞本来の力を発揮させる。免疫細胞は本来強力であり、その力を発揮すればがん細胞を消失させることが可能だ。そのために末期がんの患者でもオプジーボを投与することで助かる可能性が高まる。しかも、オプジーボは、副作用はあるものの抗がん剤のように激しいものではない。

魔法の薬オプジーボは、現時点ではメラノーマと非小細胞肺がんの治療薬として承認されており、今後、ほかのがんにも適用される見通しだ。既に腎臓がん、血液がんの一種についての承認が申請済みで、今後も頭部頸がん、胃がん、食道がんなどへの適用が期待されている。

あらゆるがんを治療できる可能性

以前の記事「iPS細胞はどうなっているのか」で紹介したように、iPS細胞を活用したがんの治療法も研究が進められている。これも免疫細胞によって、がん細胞を攻撃するメカニズムは、オプジーボと同じだ。

オプジーボは薬効成分によって、体内の免疫細胞を活性化し、がん細胞を攻撃する力を復活させる。これに対してiPS細胞を活用する場合は、自分の免疫細胞をiPS細胞によって作り、体内に注入することで、がん細胞を攻撃する。iPS細胞は無限に増やすことができるので、がん細胞を攻撃し尽くすまで免疫細胞を作ればよい。

これも自分の体が本来備える免疫機能を活用したがん治療であり、副作用も少ないものと予想される。iPS細胞を活用したがん治療の実現には、まだ少し時間がかかり、男性の死因第一位の肺がんに効くオプジーボも現時点では薬価が高額なことなど問題はあるが、がんとの戦いに人類が打ち克つ日は、それほど遠くないようだ。

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