「失業なき労働移動促進政策」がもたらす、日本型終身雇用制度の終焉

2015.08.17

経営・マネジメント

「失業なき労働移動促進政策」がもたらす、日本型終身雇用制度の終焉

川崎 隆夫
株式会社デュアルイノベーション 代表取締役

8月14日の閣議に提出された2015年度の年次経済財政報告(経済財政白書)には、初めて「失業なき労働移動の促進が重要」との認識が示されました。「失業なき労働移動の促進」政策によって、今後雇用環境はどのように変わっていくのでしょうか?

■「中高年雇用流動化時代」への対応策

以上のように、業績が低迷している企業にとっては、再就職支援会社を活用しやすい環境が整備されたため、希望退職制度等を活用した人員削減策など、各種経営合理化策を実行しやすい状況が生まれたことは、間違いありません。

特に今後は、従来再就職支援会社を活用していなかった企業の利用が急増することが予想されることから、40歳以上の「中高年人材層」の雇用流動化が、一気に加速化されることは確実です。一方で、人手不足に悩む成長企業にとっては、今まで大手企業などに偏在していた実務経験豊富な人材を採用できる、またとないチャンスが訪れたともいえそうです。

このように、政府が主導する「失業なき労働移動促進政策」の本質は、業績が思わしくない大手企業などに滞留している、主に40歳以上の労働者を、今後成長が期待できる中小・ベンチャー企業などに転出を促す点にある、といえるでしょう。

一方で、「失業」を予防するために、再就職支援会社を「セーフティネット」として活用する点も、本施策の特徴のひとつです。よって「失業なき労働移動促進政策」が展開されていくにつれ、早晩日本型終身雇用制度は事実上崩壊し、欧米型の雇用流動化社会に急速にシフトしていくと考えて間違いないだろうと思います。

ではこのような雇用流動化時代の到来に、40歳以上の中高年層に属するビジネスパーソンは、どのように対処していけばよいのでしょうか? 認識しておかないとならないことは、40歳を過ぎたら、社内の評価のみならず、外部の「転職市場での市場価値向上」を意識する必要性が生じてきたことです。そこで留意するポイントは、以下の3点になります。

1点目は、「ポータブルスキル」をブラッシュアップすることです。 これは自社だけではなく、どこの企業に転職しても通用する専門知識やスキルを、定期的にブラッシュアップしておくことが肝要となります。

2点目は「環境対応力」を磨くことです。 例えば、大手企業から中小・ベンチャー企業に転職した場合、自分よりも10歳以上若い上司の部下になるなど、過去に経験のない事態に直面することが多々あります。よって、このような環境変化に対応できる能力が、今後最も必要とされる時代になっていきます。

3点目は、「社外人脈」を意識的に形成することです。雇用流動化の時代には、同じ会社の同僚とばかり付き合っているだけでは、視野が広がりません。社外に多くの人脈を形成することにより、自分自身の能力レベルを客観的に捉えることができるようになるため、効率的にスキルアップを図ることが可能になるはずです。

「失業なき労働移動促進政策」は事実上、各企業に日本型終身雇用制度からの脱却を促す政策であるといっても、過言ではありません。よって、自分自身の市場価値を常に意識して行動できる人材しか生き残ることができない、厳しい時代が幕を開けたといえるでしょう。

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川崎 隆夫

川崎 隆夫

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役

経営コンサルタントの川崎隆夫です。私は約30年にわたり、上場企業から中小・ベンチャー企業まで、100社を超える企業の広告・マーケティング関連の企画立案、実行支援や、新規事業、経営革新等に関する戦略計画の立案、企業研修プログラムの策定や指導などに携わってきました。その経験を活かし、表面的な説明に留まらず、物事の背景にある真実が浮かび上がってくるような、実のある記事を執筆していきたいと思います。

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