「信じたい心」と「懐疑の精神」

2012.09.20

ライフ・ソーシャル

「信じたい心」と「懐疑の精神」

松尾 順
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これまで、私たちは「人を信じること」が「生き残り」に有利であったことから、基本的に「人を信じたい」という強い欲求を生まれながらに持っています。 しかし、ITの進展などによって、極めて多くの数の人々とつながるようになった今、適度な「懐疑の精神」を意識的に養うことが、生き残りにますます必要になっています。

人類の歴史は400-500万年程度と言われていますが、農耕が始まり、食料が安定して確保できるようになったのは1万年前ほどから。この食料の安定確保によって一定の地域での定住が可能となり、ひとつの社会(集団)の人口は、加速度的に増加していきます。

しかし農耕開始以前に400-500万年も続いた

「狩猟採集生活」

は、要するに「その日暮らし」です。

常に食料(獲物)を求めて移動せざるを得ない状況でした。したがって、ひとつの社会(集団)として維持できる構成員数は、100人程度だったと考えられています。

100人程度と言えば、オフィスが一箇所の会社であれば、全員の顔と名前、そしてある程度はそれぞれの性格などもわかる人数ですね。

私たちの祖先は、そんな100名ほどの小集団を形成し、お互いに助け合って厳しい自然環境を生き延びてきたのです。

さて、こうした小集団に属する個人においてまず必要とされることは、

「人を信じること」

でした。

なぜなら、人が教えてくれる、あるいは言い伝えや噂などとして聞く、

・このきのこは食べてはいけない(食べて死んだ人がいるから)
・あの谷には行ってはいけない(行方不明になる者が多いから)
・けがをしたらこの草を治療に使うとよい(効果があったから)

などといった話は、基本的に疑いを持たず、言われた通り信じることで難を逃れることができ、生き残りに有利であったからです。

もちろん、「オオカミ少年」のように嘘をついたり、騙す者もいました。

しかし、そうした人間は、

「信用できないやつ」

として誰も相手にしてくれなくなるため、じきに淘汰されてしまう。

ですから、ともあれ人の言葉(および行動)を信じていれば、おおむね間違いないということを私たちは、数百年万年の間に学習してきたわけです。

ちなみに、「信じる」ということは言い換えると、人の言葉や行動を

「真似する」

ということでもありますね。

したがって、

『影響力の武器』

において、「説得テクニック」のひとつとして挙げられている

「社会的証明の原理」
(人の行動を参照して意思決定すること)

の根底には、

「人を信じたい」

という欲求があるといえるでしょう。

ただ、農耕が始まった1万年前以降、私たちの社会の構成員数は、

数千、数万、数十万、数百万、数千万

と増加し続けてきた。

これだけの数となると、もはや、お互いの顔も名前も性格もわからない人がほとんどです。しかも、ITネットワーク社会の今、そうした知らない人々の言動や噂が情報として日々、山ほど入ってきます。

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松尾 順

有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー

これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。

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