お客様主導の時代の第3のマーケティング

2007.11.07

営業・マーケティング

お客様主導の時代の第3のマーケティング

猪熊 篤史

伝統的なマーケティング手法に加えて、第3のマーケティングがある。お客様を支援することによって信頼を得る。そんな企業のあり方がある。

 伝統的なマーケティング手法としてプッシュ型とプル型のマーケティングがある。お客様に対して製品やサービスを積極的に勧めるプッシュ型マーケティングは、製品やサービスがそれほど差別化されておらず、何もしないと違いが分からない(理解されない)もの、そうは言ってもお客様にある程度内容を理解されているもののマーケティングに有効だと言われている。一方で、プル型のマーケティングは、広告宣伝などを活用してユーザーや消費者となるお客様に対して情報を発信して、お客様の方から製品やサービスを求めて頂くマーケティングである。製品が明確に差別化されていて、お客様がブランドを指名買いするような製品、頻繁に買い換えるような製品ではなく、お客様が購買に強い関心を持つような製品のマーケティングに有効だと言われている。

 売上の拡大など、マーケティングの成果を上げるためには、このようなプッシュ型とプル型のマーケティングを効果的に組み合わせることが重要である。お客様を欺くことはできないが、製品やサービスへ対して関心を持って頂く、理解を促す、購買意欲を高める、また、購買後の満足を高め、購買後の経験やイメージの価値を高めるための取り組みは不可欠である。

 このような伝統的なマーケティングに対して第3のマーケティングがある。お客様にプッシュ型、あるいは、プル型でアプローチしても、豊富な情報源を持つお客様は企業やその製品について予想以上に良く知っていることが少なくない。インターネットの普及は消費者情報の充実に多大な貢献をしている。お客様は企業からの直接発信される情報や口コミ情報によって製品メーカーのスタッフ以上に製品について知ることができる。企業はお客様の要望通りに行動するなど、御用聞きに徹するしかなくなりそうである。このようなお客様主導の時代において第3のマーケティング手法として効果が認められているのが、お客様を支援するマーケティングである。

 これはGive&Takeと言うより、Give&Giveの精神を実践したものである。企業が持っている情報や能力をお客様に無償で提供するというものである。例えば、お客様のためになるのであれば、競合他社の製品でもお客様に勧めるというのが、このお客様を支援するマーケティングである。

 なぜ企業は短期的な利益を生まないかも知れないお客様支援を行うのか?そこには2つの理由を指摘することができる。第1に、自社の製品やサービスに自信があるからこそ企業は無償でお客様支援をすることができるのである。十分な品質や価値があることを前提にすれば、お客様が製品を購入しないのは、自社製品が理解されていないから、あるいは、企業としてお客様からの信頼を獲得していないからである。新興のベンチャーがアップルのiPodのような携帯音楽プレーヤーや楽曲等の配信サービスを業界に先駆けて提供していたとしても普及しなかったことだろう。iPodが1億台以上の出荷を記録しているのはマッキントッシュなどのコンピューター製品によってアップルが構築してきたアップルユーザーとの信頼関係、ブランドイメージ、技術力などが基点になっていると言えそうである。アップルは決して90年代にボランティア活動をしていたわけではないが、優れた性能に対する自信がウィンドーズ製品の急速な普及によって虐げられていった。90年代後半には破綻の危機を迎えていた。そこから、創業者スティーブ・ジョブズ氏の復帰、iMac、OS X、iPodの発売によって業績を回復している。開発・製造、販売・マーケティングにおける蓄積が実を結んだと言える。ウィンドーズの攻勢によって無償の顧客支援と同様になっていたアップルファンに対する活動が、アップルの復活に伴って広い支持を集めるようになっている。アップルショップの展開などは顧客を支援するマーケティングの具体的な形である。

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