観念が人をつくる

2011.09.16

仕事術

観念が人をつくる

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

私たちは、日々遭遇する出来事や事実、体験によって自己がつくられていくと思っている。しかし実際自己をつくっているのは、出来事や事実をどうとらえ、どう心を構え、どう体験していくかを根っこで決めている「観念」である。降りかかってくる出来事を100%コントロールすることはできないが、観念をコントロールすることは可能である。

 ですから、健やかな観念をもった人は、健やかな方向にものごとをとらえ、評価し、体験をします。結果的に健やかな人間となり、健やかな人生を送っていきます。もっと言えば、健やかな観念が社会に満ちると、健やかな社会となります。
 逆に、冷笑的な観念をもった人は、結果的に冷笑的な人間となり、冷笑的な人生を送ります。冷笑的な観念が世の中を覆うと、冷笑的な社会になります。観念というのは、それほど根本的に強力なものです。
 人生をよりよくつくっていくためには、もちろん意志や努力や想像が必要ですが、そもそもその意志を起こせるか、努力するエネルギーを湧かせられるか、明るく想像できるか、それらを大本(おおもと)で支配しているのは観念です。

 なんだ、じゃ、人生明るく生きるためには「ポジティブ・シンキング」だ、と思われるかもしれません。私はポジティブ・シンキングには肯定的ですが、昨今ではそれが単なる「気分転換術」として紹介される向きがあるのが残念です。
 もちろん観念もポジティブサイドでもったほうがよいに決まっていますが、観念をつくることは、功利的な術よりも深いものですし、シンキング(思考)よりも根っこにあります。観念は、その人の内に複雑に構築される信条体系・価値評価システムで、一朝一夕にはできあがらないものです。
 言ってみれば、それは心の内の地層のようなもので、読書やら交友やら、見聞やら体験やらで、長い時間をかけて積もり、ずどんと居座ってしまうものです。意志的な努力を継続してやっと醸成できる観念もあれば、知らぬ間に染まってしまい、それを脱色するのがなかなか難しい観念もあります。

◆いま個人と社会に必要なのは「健やかな観念」
 いずれにせよ、どんな観念をもつかは、人生の一大事です。どんな知識をもつか、どんな技能をもつか、どんな会社に入るかより、はるかに大事です。私は教育分野の仕事をライフワークにしたいと思い8年前に独立しました。私は「健やかな観念」こそが個人と社会に必要だと思い、「働くこと×健やかな観念」を自分の中のキーコンセプトにして企業研修の場で学びのプログラムづくりを始めました。
 私がここで言う「健やかな」とは、生き生きと強い、素直である、明るく開けている、善的なことに向かっている、自然と調和している、などの意味合いです。
 そうした健やかな観念を涵養してくれる古典的な言葉は世の中にたくさんあります。先達たちが残してくれた宝石をひとつひとつ拾い集め、「よりよい仕事を成す」ための学習プログラムという首飾りに仕立てる───それが私の仕事になりました。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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