曖昧に考える力〈下〉~“にじみ”を省く思考がもたらすもの

2011.02.03

仕事術

曖昧に考える力〈下〉~“にじみ”を省く思考がもたらすもの

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

思考力は行動の源泉でもあるために、曖昧な思考力の脆弱化は、仕事を具体的に指示されなければできない社員、みずからの仕事をみずからつくり出せない社員が増えることと決して無関係ではない。

 私は研修の作り手、本の書き手として、できるだけ分かりやすくプログラムやコンテンツをこしらえる努力は、当然する。しかし、受け手が安易さから所望する「簡便で具体的で、考える手間を省略した」情報を与えることは拒みたい。たとえ売りづらくとも、ファジーな思索を要求する仕掛けを盛る。

 曖昧に考えることは大事なことだ。曖昧さを受け入れて、曖昧さとともに思考ができない人は、実は思考力の弱い人である。具体的な情報、具体的な方法は、効率・実用・功利に結びつきやすい。大衆的な人気も起こりやすい。だからそこに商売も集まっていく。しかし、そこに傾倒していけばいくほど、私たちは思考力を弱めていくという罠がある。

 思考力は行動の源泉でもあるために、曖昧な思考力の脆弱化は、仕事を具体的に指示されなければできない社員、みずからの仕事をみずからつくり出せない社員が増えることと決して無関係ではない。
 その点を十分に感じ取っている問題意識の高い人事担当者や編集者は少なからずいる。しかし、昨今のビジネス現場に吹き荒れる実利・即効主義の明快で強い風の前では、曖昧に考える力を育もうなどという、まさにファジーな意見・親心は、その灯を消さずにいるのがやっとのことである。

◆ファジー思考とは「干しこんぶ」である
 思考力を鍛えるということでロジカルシンキング流行りである。しかし、その方法論をマニュアル的にいくら巧みに習得したところで、曖昧なテーマを曖昧に考える力をそもそも欠いていては、大元のところで行き詰まってしまい、物事をロジカルに分解し、因果づけし、系統立てるという川下のプロセスに移ることはできない。大きく複雑な問題であればあるほど、曖昧に考える力がまず必要で、その上でのロジカルシンキングなのだ。
 曖昧に考える力を身につけると、今度は逆に、世の中の形式化された知識がどんどん生きてくる。先ほど例に出したような「成功する25の鉄則」を読んでも、曖昧に考える力を持った読者なら、その羅列された25項目の行間を膨らませたり、あるいはそこに自分なりの批評と創造を加えて、発展的な理解を得ることができる。つまり、形式的に固形化された情報を崩し、そこにみずからのにじみを加えて、ふくよかに考えることができるのである。

 ちなみに私はこれを「干しこんぶ思考」と呼んでいる。―――干して乾燥させたこんぶ(昆布)はカリカリに固く縮こまっているが、水の中に入れて浸すと、どんどんと大きく柔らかに形が戻ってくる。そして、こんぶの表面にはぬるぬるした厚い粘液状の膜ができる。その膜は昆布のエキスをたっぷり含んで、栄養価も高いらしい。まさに曖昧な思考とは、この“昆布の水戻し”のようにしなやかに膨らみ、豊かな“含み”をつくり出す思考なのだ。

次のページ理を尽くして考えて考えて、曖昧さにたどり着くことは自然...

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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