曖昧に考える力〈下〉~“にじみ”を省く思考がもたらすもの

2011.02.03

仕事術

曖昧に考える力〈下〉~“にじみ”を省く思考がもたらすもの

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

思考力は行動の源泉でもあるために、曖昧な思考力の脆弱化は、仕事を具体的に指示されなければできない社員、みずからの仕事をみずからつくり出せない社員が増えることと決して無関係ではない。

◆曖昧に考えられない人は、実は思考力のない人である
 私は企業研修とそれに関連するビジネス書の執筆を主たる生業としている。顧客企業の要望に応え、潜在読者であるビジネスパーソンの要望を受けながら、研修プログラムや書籍コンテンツをつくるのが仕事となる。
 しかし、いつも研修担当者や出版社の編集者と綱引きをしている。それはどんな綱引きかというと―――「なるべく具体的・実践実用的で分かりやすくしてください」という先方の要請と、「多少、抽象論となっても、受け手に思索させる余白を入れましょう」という私の意図との綱引きである。

 企業の研修担当者は、業務処理に直結する研修内容を望む。知識吸収や技能習得をさせて研修効果の見えやすいプログラムを望む。そういったプログラムの方が、受講者からは何かと文句は出ないし、やりやすいのだ。また、ビジネス書の企画・編集においてもそうだ。ともかく内容を単純化し即効的なものにしたほうが売りやすいし、実際に売れていく。
 受け手は簡便なソリッドな情報を欲しがり、理解に骨の折れるファジーな情報を敬遠する。より正確に言えば、直接仕事の処理に結びつく情報には金を出して本を買うが、直接的に実効のないものには、よいことが書かれているとは思いつつ、金を出してまで難しい本を読みたくないというのが心情だ。そのために中間にいる人たちは、戸惑いながら、しかし最終的に受け手におもねっている。私は(自省を込めてだが)その傾向に抗わねばならないと思っている。

 その理由を図5、図6を使って説明しよう。図5は、書店によく並んでいる『○○に成功する25の鉄則』といった実用書のコミュニケーションモデルである。著者は、具体的で分かりやすい即効性のある本のほうが売れるだろうと思って、そして出版社のそうした意向もあるので、思い切って内容を単純化する。そして、にじみ情報を省いて、「成功する25の鉄則」という本をまとめる。

 この本は、いわば簡便に内容が具体化され、整理されたソリッド情報の本である。読者はにじみ部分の情報がないので、とても読みやすい。読者は成功を信じて、25の鉄則をマニュアル的に実践すればよいだけだ。読者はことさら行間を読み、自分なりに内容を膨らませて理解しようという刺激を受けない。こうした類の情報摂取・情報理解が習慣化してくると、ファジーに考える力が衰えていくのは明らかだ。

 にじみを省いた情報が好まれ、同時に、ファジーな思考力が衰えるとどうなるか―――図6を見てほしい。
 いま、「成功する25の鉄則」を読んだ受け手Aは、この本のことを他者(受け手a)に伝えようと思っているのだが、本にはにじみの部分が削ぎ落とされている上に、みずからもファジーに考える力が弱いので、自分なりににじみを加えられない。すると、送り手Aが発信できるのは、本を読んで具体的に理解できた箇所の要約か、コピペ(コピー&ペースト)でまるまるの写しかになる。そうして理解容易なソリッド情報だけが、縮小再生産されて伝わっていく。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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