曖昧に考える力〈上〉~ソリッド思考・ファジー思考

2011.02.03

仕事術

曖昧に考える力〈上〉~ソリッド思考・ファジー思考

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

私たちは、あまりにビジネス社会からくる効率・実用・功利主義の影響を受けていて、曖昧さを避け、揺らぎを嫌い、具体・客観・論理を奨励する。しかし、これはあくまで一方向への視点に過ぎない。

◆曖昧なことを曖昧に考える力
 「考える人間の最も美しい幸福は、究め得るものを究めてしまい、究め得ないものを静かに崇めることである」。―――ゲーテ『格言と反省』(高橋健二訳『ゲーテ格言集』より)

 ドイツの文豪ゲーテが、同時に優れた自然科学者であったことはあまり知られていない。形態学の創始や色相環の発明など、その合理的、論理的、客観的な思考によって科学の面でも人類に数多くの貢献を残している。そのゲーテにとって、やはり「この宇宙とは何か?」「人間とは何か?」そして「神とは何か?」は、生涯を懸けて取り組んだ“大いなる問い”であった。その問いに対し、ゲーテは、“大いなる合理的・論理的・客観的思考”をもって解明をしようとしたが、ついに答えは出せなかった。出せなかったというか、最終的には「不可知である」という結論にたどり着いた。
 彼は不可知であるという謙虚な前提に立ち、今度は“大いなる曖昧な思考”でもってこの宇宙をとらえ、人間をとらえ、神をとらえた。そして、大いなる示唆・暗示に富む戯曲『ファウスト』を書き上げた。この歴史的名作は、以降、“読める人が読めば”無尽蔵にその深遠さを与えてくれる文学として光彩を放っている。

 今日私たちがこの『ファウスト』を読むことに困難を覚える理由として、キリスト教の観念・知識が乏しいから、昔の外国の文章だから、あるいは高尚すぎるから、といったことをあげるかもしれない。それらは一部の理由としてあるだろう。しかし私は、本質的な理由はそこにあらずと思っている。真の理由は、端的に言ってしまえば、「曖昧に考える力」を失くしたからである。

 現代の私たちは、あまりに、物質還元論的な科学万能主義と、ビジネス社会からくる効率・実用・功利主義の影響を受けていて、曖昧さを悪とし、不明瞭を避け、揺らぎに不安を感じ、目に見えるものに固執し、論理的客観的に考えることを賢いとし、具体的に記述することを奨励するようになった。これらは決して悪いことではないが、その偏向が大きくなるにしたがって、私たちは、曖昧さを肯定し、不明瞭を受容し、揺らぎを意図的に呼び込み、目に見えないものを求め、直観的主観的に考えることを賢いとし、示唆的に表現をする、ことが弱くなった。
 つまり、日常生活や人生、社会には、科学がどれだけ発達しようと、依然、曖昧な問いだらけであるのだが、現代の私たちは、それに対し、曖昧さで強く考え、曖昧な強い答えを持ち、曖昧にどんと構えることができなくなってしまっているのである。
 その代わりに、やたら情報を集めることで安心する、書物に載っている知識を得ることで答えを知った気になる、論理的な分析手法といわれるものに傾倒し、その行為に自己満足する、他人の書いた成功法則・上達マニュアルなどを鵜呑みにして実践する―――といった見かけは具体的で合理的そうでありながら、その実、中身が詰まっていない思考で曖昧さから逃げることが増えた。

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村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

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