防御は最大の攻撃なり?P&G・逆転の戦略

2011.01.25

営業・マーケティング

防御は最大の攻撃なり?P&G・逆転の戦略

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 P&Gから濃縮液体洗剤の新製品「アリエールレボ イオンジェルコート」が発表された。発売は4月上旬。花王の「アタックNeo」、ライオンの「トップNANOX」とガチンコ勝負になる。しかし、その作戦は実は奇策であるといってもいいだろう。

 同製品も先行2商品と同様に「すすぎ1回」を訴求できる商品である。しかし、そこはメインの訴求ポイントとしていない。<衣類の表面をコートして、汚れをつきにくくする>という。
 リリースでは、<スパゲティソースや餃子のたれなど、よくある食べ物の汚れに高い効果を発揮します>とその効用が具体的だ。<「予防洗い」と洗浄力で、食べ物汚れに高い効果を発揮する。スパゲティートマトソースの場合(P&G実験結果)>と、コーティング効果によって普通の洗剤では落ちないトマトソースの汚れが、キレイさっぱり落ちている比較写真が掲載されている。
 ランチにパスタを食べに行き、ついつい、トマトソースを注文してしまう。そんな時に限って真っ白なシャツやブラウスを着ている。食べ終わった満足感を味わった次の瞬間、服に飛び散ったオレンジ色のポチポチを発見。そんな悲しい思いをしたことがある人なら、「これはいい!」とイチコロになりそうな訴求である。トマトソースの猛攻すら簡単に排除する鉄壁の防御が「アリエールレボ イオンジェルコート」で洗えば手に入るのだ。

 鉄壁の防御を手に入れられるのは消費者だけではない。「汚れを防止し、簡単に汚れをキレイさっぱり落とす」という機能はP&G自身にとっても鉄壁の防御として機能する。
 訴求の強さはともかく、「すすぎ1回は」3商品とも実現している。加えて、ライオンは「臭いの除去」、P&Gが「汚れ防止と食べ物汚れ除去」という付加価値を増している。とすると、シェア№1でリーダー企業の花王は、「アタックNeo」をリニューアルする際に、競合商品が持っている付加価値を取り込む可能性が考えられる。優れた研究開発力で同等の機能を実現し、強大な販売力で先行する商品を覆い被するようにチャネルの棚を席巻していく。リーダー企業の常套手段、「同質化」だ。

 しかし、「コーティング」「汚れを防止し、簡単に汚れをキレイさっぱり落とす」という機能はP&Gにはできるが、花王にはできない。技術的にできないのではない。
 白いシャツをトマトソースの飛沫で汚してしまったらどうするだろうか。ああ、早く汚れを落とさなきゃ・・・と、家に帰ったらそそくさと漂白剤に浸けるだろう。「コーティング」があれば、そうした手間は不要になる。普通に洗濯すればいいだけだ。とすると、トマトソースに限らず、ひどい汚れの場合でなければ漂白剤を使わなくなる。使用量が減る。異なるカテゴリーの自社商品同士がカニバリ(共食い)を起こしてしまうのである。故に、花王は同様の機能を付加価値として取り込まない可能性が高いのである。では、P&Gはどうなのか。漂白剤を発売していないのだ。カニバリの懸念はない。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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