「働くことを切り拓く力」の脆弱化を考える 〈下〉

2011.01.11

組織・人材

「働くことを切り拓く力」の脆弱化を考える 〈下〉

村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

「働くことを切り拓く力」について、キャリア形成の5つの要素「CROSS-ing」モデルを用いて説明する。

 企業組織における人財育成においても同じである。ロールモデルたるべき人物の仕事ぶりから、個々の社員が有形無形に何かを引き出し、組織文化や組織のDNAを継承させていくことに成功しているのが本田技研工業である。
 同社の社史『語り継ぎたいこと~チャレンジの50年』は、会社創業期からの群像物語である。ここには、本田宗一郎や藤沢武夫はもちろんだが、一課長や一技術者の話までふんだんに紹介されている。この社史が社員にとって非常に有益なのは、会社の歴史的出来事が書かれているからではない。スーパーカブの発売にせよ、マン島レースでの優勝にせよ、CVCCエンジンの開発にせよ、そこに関わった人物がどう考え、どう失敗し、どう決断し、どう振舞ったかが肉声を交えて書かれているから有益なのである。
 先程、ロールモデルから得るものは、方向性であると書いたが、もうひとつ忘れてならないものがある。―――それは“熱”である。キャリアをたくましく切り拓いていくためには、心に熱を帯びていなくてはならない。方向性を持ち、熱を帯びたとき、その先に夢や志は見えはじめてくる。

〈3〉機会〈OPPOURTUNITY〉の形成要素
 私たちは環境と時代の中に生きている。だから自分を大きく活かしていくためには、環境が自分に求めるものは何か、時代が要請するものは何かということに常にアンテナを張っておく必要がある。
 私たちは、環境や時代に合わせるのが精一杯なところがある。あるいは環境と時代の中に自分の居場所を確保することで満足してしまうこともある。しかしそれはまだ「働くことを切り拓く」姿ではない。
 環境や時代といった文脈を感受し順応することから、一歩踏み込んで、「だから次に、ここにはこういうチャンスがあるはずだ!」と、あるリスクを負って未来を自分の意志の方向にもっていくような挑戦姿勢、それこそが切り拓くというキャリア形成のあり方だ。

 そうした果敢に機会を創造する精神はどうやれば涵養できるのだろう。私はこれに関しても特別な教育メソドロジーや訓練は必要ないと思っている。これはいわば“精神の習慣”の問題なのだ。精神の習慣は日ごろの積み重ねからつくられる。さきほどロールモデルの箇所で触れたとおり、偉人や第一級の生き方をしている人びとについて、家庭で学校で組織で語り合えばよい。彼(彼女)は、その人生の大きな分岐点に立ったとき、どんな勇気ある行動をしたかを。
 また、マスメディアは往々にして、何か突飛で話題性のある結果を出した人をヒーローとしておもしろ可笑しく紹介するだけであるが、もっと真摯に社会的に意義のある仕事をする人びとの、地味だが腹応えのある奮闘プロセスを(視聴率・閲読率を失わないような)上等な方法を考え紹介する努力もしてほしい。

次のページ〈4〉意義〈SIGNIFICANCE〉の構成要素

続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。

Ads by Google

この記事が気に入ったらいいね!しよう
INSIGHT NOW!の最新記事をお届けします

村山 昇

キャリア・ポートレート コンサルティング 代表

人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。

フォロー フォローして村山 昇の新着記事を受け取る

一歩先を行く最新ビジネス記事を受け取る

ログイン

この機能をご利用いただくにはログインが必要です。

ご登録いただいたメールアドレス、パスワードを入力してログインしてください。

パスワードをお忘れの方

フェイスブックのアカウントでもログインできます。

INSIGHT NOW!のご利用規約プライバシーポリシーーが適用されます。
INSIGHT NOW!が無断でタイムラインに投稿することはありません。