コンピューター将棋ソフトが女流王将に勝利した。この裏には、情報処理技術の進歩がある。その方向性は、人間の思考をまねる人工知能的なものではなく、純粋にコンピュータの迅速な計算能力を活かすというもの。そして、そうした情報処理技術は、実は、調達・購買、サプライチェーンマネジメントといった経営の世界にも広まっていることを紹介する。
「将棋の清水市代女流王将に情報処理学会のコンピューター将棋システム「あから2010」が挑戦していた一番勝負で、コンピュータシステムのあからが勝利を収めた。公の場で、コンピューターが日本将棋連盟の棋士を打ち破ったのは初めて。
あからは、世界コンピュータ将棋選手権で優勝した「激指」など4種のソフトが搭載されており、導き出した解答のうち最も多かった手を指す。(参考:2010年10月11日 産経新聞)」
なぜ、コンピュータ将棋をここで取り上げるのか。実は、これらのソフトに使われている情報処理技術と、調達・購買やサプライチェーンマネジメントの意思決定に使われているものとには、同じ技術が使われている。それは、組合せ最適化技術と呼ばれるものだ。
組合せ最適化技術は、膨大な組合せが考えられる問題に対して、それらのすべての組合せの結果を高速に計算し、答えが最大もしくは最小となる組合せを回答する技術。
たとえば、将棋では、初手からどこの歩を突くのか、先に玉を動かすのか、様々な手がある。そして、後手もそれを受け、色々な手があり、これを交互に繰り返していくと、終局まで、非常に膨大な手の組合せが考えられる。現れる可能性のある局面の数は、チェスが10の120乗程度であるのに対し、相手から得た駒を再利用する将棋では10の226乗程度となる。将棋の場合、そのそれぞれの局面で可能な指し手は平均して約80。
将棋ソフトは、基本的にはこれらの手毎に想定される次の手、その次の手、そのまた次の手...と今後の手の組合せをすべて洗い出し、それぞれの計算を行い、比較した上で次に指す最善手を選ぶ。計算といっても、将棋の場合は最善という状態を単純に数値で表せないので、形勢点という考え方を使い、どの手が優勢かを数値化して評価する。この形勢点をどのように導き出すかで、各ソフトの個性が出る。だから、今回のあから2010では、四つの異なるソフトの合議性という設計を採用したのだろう。
一方、調達・購買やサプライチェーンマネジメントの意思決定は、突き詰めれば、品質、安定供給、リードタイム、リスクマネジメントなどの要件を満たしつつ、トータルコストを最小化するというシンプルなものだ。だから、将棋ソフトの形勢点や担当者の思考パターンを真似しようとする人工知能、エキスパートシステムのようなソフトウェアの開発者によるまぎれがなく最適解を導きだすことができる。調達・購買やサプライチェーンマネジメントの意思決定の方が、将棋よりも組合せ最適化に向いているということだ。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
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