吉野家「牛鍋丼」のチャレンジと課題を考察する

2010.09.04

営業・マーケティング

吉野家「牛鍋丼」のチャレンジと課題を考察する

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 9月7日(火)から吉野家が「牛鍋丼」並盛り280円を全国発売する。「一人負け」とまでいわれる牛丼戦争において、生き残りをかけた一手の決め手は?そして課題はどこにあるのか?

■「同等の肉」「異なるメニュー」というパラドクス

 「牛丼用こだわりの肉」は牛鍋丼には用いられない。とすると、すき家、松屋の牛丼用いられている主に豪州産の肉質と同等のものであったと仮定すれば、280円という同等の価格で、一方は肉がメインの牛丼、吉野家はその他具材も入った牛鍋丼という「同等の肉の土俵で異なるメニューによる勝負をする」という問題が生じる。
 <試験販売でも『牛丼』から『牛鍋丼』にシフトする消費者もあったがそれほど多くはなかった><『牛丼』とのカニバリが懸念されるというよりは、新規の顧客の掘り起こしに貢献してくれる商品である」>との安部社長のコメントをマイライフ手帳@ニュース9月3日の記事( http://tinyurl.com/2blwtf8 )が伝えている。
確かに、吉野家の牛丼をその肉質にまでこだわり、高くとも支持するという客層は(減少傾向にあるが)存在する。しかし、肉質にこだわらず、とにかく安価に牛肉を食べたい人は、すき家を選択することになるのではないか。だとすれば、自社からの顧客流出防止、他社顧客の吸引という期待効果は実現できるのだろうか。牛鍋丼に商機があるとすれば、その味自体が、牛丼か牛鍋丼かというメニューの違いを乗り越えて評価された場合だ。それは可能なのだろうか。

■「原点回帰」とはいうけれど

 この牛鍋丼のそもそものコンセプトは「原点回帰」にあるという。nikkei TRENDY netの記事には<明治・大正時代に、牛肉や野菜、豆腐などを甘辛く煮込んだ『牛鍋』の具をごはんに乗せたのが、牛丼の始まり。『牛鍋丼』はその原点に立ち返った“復刻版”商品」(吉野家・安部修仁社長)>とある。
 Gigazineの記事には記者発表で紹介されたCMを撮影した動画がYoutubeにある。
 吉野家TVCM「今、蘇る味」編( http://tinyurl.com/26xu5jo )
 キャッチコピーは「100年変わらない、うまさだけを。」である。
 「原点回帰」に関する評価はnikkei TRENDY netの記者の感想が印象的だ。
 <「牛肉の代わりにしらたきを食べている」と思うと悲しくなるが、「これこそ牛丼の原点!」と、その歴史を噛みしめるのもよい。また、肉は薄いものの、手ごろな価格ですきやき丼が食べられると考えれば、お得な気もする。>
 他メディアの記事においても、試食の感想は「価格の割には悪くない」=「コストパフォーマンス」は取れているという主旨の記述が目立つ。300円以下の安価なランチの選択肢としてはアリということなのだろう。ただ、「原点回帰」はあくまで苦境打開のための、吉野家としてのキーワードである。顧客が「回帰」したいわけではない。顧客にとっては<牛丼ばかり食べている人には新味のある選択肢になるだろう>(nikkei TRENDY net)と、新たな選択肢が提示されたにすぎない。競合、例えばすき家280円、松屋320円の牛丼に優位性のある魅力が評価されなければ、他社顧客の吸引という生き残りをかけた目的は達成できない。

次のページ■ちゃっかり「クロスセリング効果」も仕込まれている点に注目

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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