JALが教える「業績が低迷してからのコスト削減は焼け石に水」

2010.07.28

経営・マネジメント

JALが教える「業績が低迷してからのコスト削減は焼け石に水」

中ノ森 清訓
株式会社 戦略調達 代表取締役社長

100年に1度と言われたリーマンショック以降の大不況に対して、各社はコスト削減で生き残りを図ってきました。最近になり、景気底打ちの声も聞かれ、ほっとし、「よしコスト削減は終わった。これからは攻めだ」とお考えの経営者の方々も多いのではないでしょうか? 実は、そうした考えは誤りであり、「攻めの時こそコスト低減の時である」ということを、会社更生手続き中の日本航空をケースに学びます。

たとえば、日航の再建案の主な柱は、国内外45路線からの撤退、約1万6千人の人員削減、燃費の悪い老朽航空機の退役です。これらを実施するには、退職金や機材処理などの費用が嵩みます。企業再生支援機構が日航の再建支援に乗り出す前に債務超過額が試算されていた約7,600億円から1兆円にまで膨らんだのには、こうした費用が生じているからです。費用が発生しない日航の追加策としては社員給与のカット位ですが、高給批判のあるパイロットの給与を仮に半分(まず無理ですが)にしても、年250億円のコスト削減、ようやく1.2%の事業コストの低減です。(出所:2010年6月18日 日本経済新聞13面)

日航は、今後、さらに収益構造、コスト構造の転換を進めようとすれば、ますます債務超過額が増え、支援している金融機関の債権カットなどの支援や債務が更に膨らむという悪循環に陥ってしまう状況にまで追い込まれています。

本来であれば、日航は現在、小手先のコスト削減ではなく、全社員一丸となって、商品・サービスに対する信頼回復、魅力ある商品・サービスの開発、抜本的な収益構造・コスト構造の転換に努めなければならない時期です。

それが、両面コピーを取る、休み時間に電気を消す、通勤にタクシーを使わないといった議論に終始せざるを得ないのは、反対にそこまで追い込まれてしまったことの表れです。これらの取組はやらないより、本来やるべき事の支障にならない限りできる事はやった方がよいのですが、正直、焼け石に水の感があります。ひどい時には、こうした細かい努力は、経営者や従業員に、とりあえず「自分達はこんなに頑張っている」との達成感が得られるため好んで使われますが、単なる自己満足に終わってしまい、目の前の大変だが本当にやるべきことから目をそらさせてしまいます。

整備工具、資材を長く使用するのに、本当に資材を新品と中古とに分けて保管する必要があるのでしょうか?購入、廃棄の基準を厳しくして、そもそも新品を買うのを減らした方が、本当は良いのではないでしょうか。新品と中古とを分けて保管するという仕事をわざわざ作っていることはないでしょうか?パイロットが空港まで自家用車での通勤するのは、パイロットの運転する車が交通事故に巻き込まれることなどによる運行スケジュールへの影響など、別の問題をもたらすかもしれません。

このように追い込まれてからのコスト削減は、手遅れだけでなく、歪んだ行動、意思決定をもたらすことになりかねません。景気底打ちも迎え、攻めの姿勢に転じている企業も多くなってきているとは思いますが、攻めの姿勢が取れるこれからこそ、真のコスト低減に着手できる時期です。

次のページこれからが、小手先のコスト削減ではなく、攻めの過程の投...

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中ノ森 清訓

株式会社 戦略調達 代表取締役社長

コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます

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