「さよならラ王」・フレームワークで考える終焉と復活

2010.07.27

営業・マーケティング

「さよならラ王」・フレームワークで考える終焉と復活

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 日清食品の生麺タイプのカップ麺「ラ王」が8月に販売を終了するという。その告知を巡ってWeb上では大きな反響を呼んでいる。

 「ありがとう、ラ王。さようなら、生タイプ。」
 日清食品が開設したラ王販売終了を伝える公式サイト( http://twi-tou.rao.jp/ :音が出ます)には「ラ王追湯(ツイートウ)式典 平成22年7月30日、開催。」と告知されている。
 モノクロ写真のバックには、ショパンの「別れの曲」が流れる。告別式などではおなじみの光景を商品写真で再現し、販売終了を悼む「追悼」と「追湯」をかけているのは明らかだ。だが、どのようなイベントなのかは全く明らかにされていない。

 そもそも、「ラ王」が販売終了にいたる背景を考えてみよう。
 ラ王が発売されたのは1992年。従来のカップ麺の概念を塗り替えるレトルトパウチされた生麺を用いた革命的な商品として注目された。本格麺の味わい。しかし、従来のカップ麺同様の手軽さと、日清食品社内基準であるのカップ麺の保存期限5ヶ月をクリアした驚異の商品である。以来18年間ファンの支持を得てきた。

 しかし、ラ王を取りまく環境の変化は昨今特に激しい。まず、マクロ環境をPEST分析で考えてみよう。
 P=Political(政治・規制の影響)は、2008年4月より始まった40歳~74歳までの公的医療保険加入者全員を対象とした保健制度、いわゆる「メタボ検診」が挙げられる。18年前にラ王の味に感激した22歳の新入社員も40歳だ。古くからのファンほどメタボ世代であり、高カロリーのカップ麺などから距離を置く食生活に変化し始める。
 E=Economical(経済環境の影響)はデフレ・不景気が大きいだろう。特にPB(プライベートブランド)全盛の今日、大手流通グループのPBカップ麺はスーパーなら98円。コンビニでも125円程度が相場だ。215円のラ王はどうしても割高感が否めない。
 S=Social(社会的な影響要因)は様々あるが、ひとつには昨今のブームが挙げられる。健康志向やメタボの反動的な動きとして、メガフードは2007年の「メガマック」の登場で一気にブームが加速し、今日ではすっかり社会的に定着した。カップ麺でもエースコックのスーパーカップが2005年以降、「超大盛り2.0倍」を発売するなど、大盛りがすっかり標準となっている。それに比べると、麺重量155グラムと生麺としてはラ王はボリューム不足が否めない。
 T=Technological(技術の進歩による影響)。特に昨今、カップ麺は麺の進化が著しい。インスタントの袋麺同様、健康志向の高まりを受けて、油で揚げない「ノンフライ麺」が開発され、それが生麺のような味とコシを実現した。さらに、各社とも麺に独自の形状の工夫を施して食感を高める競争を強化している。エースコックは「3D麺」。日清は「太麺」で勝負している。そんな中、「生麺タイプ」だというだけでは、もはやラ王が支持され続けることは難しくなっているのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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