エプソンの「インクを交換しないプリンタ」はコロンブスの卵?

2010.05.31

営業・マーケティング

エプソンの「インクを交換しないプリンタ」はコロンブスの卵?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 エプソンからインクカートリッジを交換しないことを前提としたプリンタが発売された。それはユーザーの「便利」や「お得」を実現するだけではない。プリンタのビジネスモデルを覆す存在であり、同社ならではの事情やもくろみが、内蔵大容量インクタンクに詰まっている商品なのだ。

 5月20日に発売された、エプソンのインクカートリッジレスA4カラープリンタ『EC-01』。「インクカートリッジを交換しない」仕組みは、次のようなものだ。

・本体内に大容量インクパックを内蔵し、約8000枚が印刷可能。
・インクがなくなれば本体が回収され、再びインクが充填されて配送されてくる。

 極めて単純な仕組みだが、カートリッジ交換に比べてCO2排出量を約96%低減できるというから、エコロジー的にはすばらしい優等生だ。
それだけではない。経済性のすばらしさこそ、この商品の眼目である。A4カラー1枚あたり約8.2円、インク補充後は約6.6円となる。さらに大量の印刷枚数が見込まれる場合は、「インクおかわり2回パック」を利用すればいい。年間2回のインク再補充コミの価格を印刷枚数で割れば、1枚あたりの印刷コストは約5.5円となる。

 インクカートリッジを交換せず、インクの再補充をメーカーから受けることによって、印刷単価がどんどん安くなる。ユーザーのとってはうれしい限りだが、しかし、これはプリンタのビジネスモデルを根幹から覆すものだ。
 よく知られた話ではあるが、プリンタのビジネスモデルは典型的な「アフターマーケティング」型だ。微細なインクを噴出し、鮮麗な印刷を実現するテクノロジーの結晶が普及品であれば2~3万円で購入できる。メーカーとしては本体価格は収益トントンかマイナスだ。その代わり、印刷に欠かせないインクカートリッジはそのプリンタ固有のもので、インクが切れればメーカー指定の型番を購入するしかない。これが高い。画面に「インクが少なくなりました」というアラートが表示されると、少々切なくなる。つまり、ここが収益源だ。「アフターマーケティング」は顧客に商品・サービス利用し続けさせることで収益を上げるモデルである。要点は顧客を囲い込み、離反を防止し初期段階のマイナスを回収し、利益を積み上げていくことにある。

 しかし、『EC-01』は従来の流通構造を根本から覆す、「インクカートリッジ不要」という「中抜き」モデルなのである。
 今まで、交換カートリッジは家電量販店などの店頭で販売されてきた。『EC-01』のインク詰替えはメーカーが直接行う。「インクおかわり2回パック」ならば、通常別途費用がかかる保守料がコミコミになるため、ユーザーは安心でお得。メーカーはユーザーとの関係が密になるのでうれしい。しかし、量販店などのチャネルは中抜きされてしまうのだ。
 流通チャネルの構造を変えることは、かなりの抵抗を伴う。中抜きされればチャネルの利益がそっくり損なわれるのだから当然だ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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