顧客台帳の恐るべき威力

2007.09.12

営業・マーケティング

顧客台帳の恐るべき威力

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

一人でスーツを年間2億円売る。しかも一着数十万といった 高級スーツじゃない。紳士服チェーンAOKIでのお話。とて つもないスーツ販売の達人の秘密兵器は手作りの顧客台帳に あるという。

この達人・町田豊隆さんの販売量はスーツに換算して年間約8000着(=
AOKIのスーツの平均単価25,000円)分となる。単純計算で出勤日一日あた
り30着。一日の実働時間を8時間とすれば一時間あたり4着、なんと15分に
一着売っている計算になる。

しかも町田さんは30年近くもAOKIのナンバーワンセールスをキープしてい
る。なぜ、そんなことができるのだろうか。

瞬間的にいろんなラッキー要因が重なって、ある年の売上第一位をたまたま
獲得してしまうことはまま、あり得ない話ではない。しかし30年間も維持し
続けるためには何か秘訣があるはずだ。その秘訣はオリジナルの顧客台帳に
ある。

町田さんは82年から、接客時のやりとりやお客さんの情報を顧客伝票の欄外
に書き込んで保存し始めた。たとえば、こんな調子だ。
>>
「10年くらいのお付き合い。白髪、長身でかっこいい。今日は息子さんの昇
進祝いか?」「ちょっといいものをお求めのインテリタイプの方。わざわざ
東京都世田谷区から第3京浜で」「21回目のご来店。気さくですごく感じが
いい方」
(毎日新聞、2007年8月8日付朝刊13版9面)
<<

他愛もないといえば、その通り。だけれども、こうしたトリヴィアルな、し
かし一人ひとりの顧客に密着した情報をベースとして上で交わされる会話
は、決して通り一遍の内容とはならないこともよくわかる。自分のことを細
部までわかってくれている/気付いてくれている相手のことを、人は基本的
に快く思うものだ。

この顧客台帳は30年で20冊のファイルに積み上がり、中には1500人のお客
様の記録がぎっしりと詰まっている。これが町田さんの売上の秘密だ。仮に
この1500人が毎年、シーズンごとに1着で計4着のスーツを買ってくれると
したら、どうなるか。それだけで6000着となる。

AOKIのようなスーツショップに買い物に行く客の心理状態を考えれば、こ
んな(というと失礼だけれども、現実的には安売りスーツの店であることに
は間違いないはずだ)お店でも、自分のことをディテールまできちんと覚え
ておいた上での接客をされれば、そりゃうれしいし店の人への信頼感もぐっ
と増すだろう。

カスタムオーダーで仕立ててもらうお店での話ではないのだ。平均単価でみ
れば、2万からせいぜい5万円ぐらいまでのスーツショップである。

これが最低でも10万クラスのスーツを扱っているテイラーなら話はまた別で
ある。むしろそれぐらいのクラスの店で顧客のことを掴んでいないようで
は、そもそも商売が成立しないだろう。

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