タバコ部屋のコミュニケーション

2008.09.05

ライフ・ソーシャル

タバコ部屋のコミュニケーション

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

タスポの普及が一向に進まない一方で、タバコ包囲網は確実に狭まってきている。そんな中、マイノリティーになりつつある喫煙者はこのまま片隅に追いやられる一方なのだろうか。

日経新聞夕刊の題字下コラム「音波」の08年9月4日号は「無言列車」というタイトルだった。新幹線の移動は隣の座席に座る他人同士はずっと無言だが、<喫煙室に行くと、声をかけられる。横並びの無言の行から解放され、ホッとしたような表情が浮かぶ>という。

喫煙室があるということは、これは間違いなく、東海道新幹線のN700系車両。JR東日本の新幹線は全面禁煙だが、東海はまだ喫煙車が残る。しかし、最新型のN700は全席禁煙。その代わり喫煙室が設けられており、そこに移動して一服するという仕掛けだ。
企業における禁煙の波は激しく、かつてかろうじて生存領域として許されていた喫煙室も、「ビル全館禁煙」などを受けて撤去の憂き目を見るケースが各地で散見されている。その意味からすると、この列車の喫煙室は画期的だといえるだろう。

タバコは身体に良くない。科学的な証明に対する反論も一部であるようだが、全世界的な流れとしては間違いなく有害論が圧倒的だ。しかし、コラムにあるようにココロにはいいのかもしれない。<ホッとしたような表情>という表現が印象的だ。狭い空間に閉じ込められ、多くは日帰りで長時間、超高速移動を強いられる人々の心はともすれば余裕がなくなる。列車内でのトラブルも昨今多くなっている。どこかに緊張やストレスの「抜き場」が必要なのは確かだろう。
それに比して、非喫煙者には残念ながらそうした場が提供されていないのが現状だ。高速化による時間短縮で食堂車ばビュッフェが廃止されたのは遙か昔だが、どうしても目的地までうっかりするとトイレにも立たないことすらある。そんなに座席や社内が快適に進化しても、どうしても居心地はよろしくないし、ストレスはたまる。
コラムではローカル線で女性車掌が乗客に話しかけ、車内を和ませる様を取り上げて、<不器用な乗客のため、車内の空気を和ませる工夫やサービスがあってもいい。人を運ぶだけが鉄道ではあるまい>と結んでいる。

転じて、企業。「車内」ではなく「社内」の話。多くの会社においてかつては「タバコ部屋のコミュニケーション」というものが存在していた。部門・部署や役職が全く異なる、喫煙者という共通項だけで集まる人々の喫煙室でのアンオフィシャルなコミュニケーションがそれだ。<ホッとした>気持ちで本音が語られていた。立証することは困難だが、そうしたコミュニケーションが人間関係の円滑化を促進し、人材流動化の歯止めにもなり、各種の「ハラスメント」としてわき起こる問題のガス抜きになっていたとは考えられないだろうか。
もう一方の側面として、タバコ部屋のコミュニケーションの、何気ない会話の中には優れたアイディアやイノベーションが潜んでいることも多かった。社内の貴重な「暗黙知」状態のナレッジが交換される場でもあったのだ。そうした機会喪失も実は水面下で起こっているのではないだろうか。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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