コンサルティングという仕事は、多くの場合人の気持ち・感情というものにあまり重きをおいていないように思える。そこに今後の展開の方向性がありうる。
感情や気持ちというところにフォーカスをあてていくつか記事を書いてきたが、わたしはもともとコンピューターのエンジニアや経営戦略コンサルティングの仕事をしてきたので、実は今の仕事とは相当距離がある。では、なぜ今こういうことをしているのか。
コンサルティングは基本ロジックの世界である。その業界のプロであるクライアントに対し、所詮よそ者であるコンサルタントが短期間で付加価値を与えようと思えば、まずすべき基本はデータ(ファクト)とロジックにより最善と考えうる・看破できない戦略を導き出すことである。ただし、すばらしい戦略が描けても、当然それだけでは十分ではない。通常それを実現するための仕組みや個々の社員のスキルの底上げが必要だったりする。しかし、それもコンサルティングの守備範囲であり、時間はかかるかもしれないが何とかなるだろう。ではそれで十分なのだろうか。
おそらく十分ではないだろう。そう思わせるひとつの例は最終報告会でのプレゼンテーションのしかたである。「コンサルタントにプレゼンテーションしてほしい」「社員にプレゼンテーションさせてほしい」など会社によって意見が違う。プレゼンの巧拙はあろうが、内容は同じである。だが、誰が話したかで聞く側の納得度が変わるのである。外部のコンサルタントの提言なら通る会社、社内の意見でないと通らない会社、もちろんコンサルティングのテーマによっても違うが、いろいろある。やはり感情的な要素が大きいことを示す例だろう。「うちの社長は女性コンサルタントの話しか聞かない」などという例まである(これは少し別の話?かもしれない)
最終プレゼンがうまく行っても、さまざまな局面で感情の壁とぶち当たるだろう。えてして、すばらしい戦略ほど壁は分厚かったりする。
人間、納得しないとなかなか意欲がわかないものだ。ただ、もうひとつ言うと、やる気・意欲が十分でもそれだけでは足りない。「自社商品の知識は十分、営業の交渉術も勉強した、やる気も満々、それでもやっぱり飛び込み営業は怖くてできない」という例がある。これも感情がボトルネックになっている例である。
コンサルティングのプロセスであるファクトの収集・構築にあたっても、感情への考慮が役に立つ局面がある。
新商品の開発プロジェクトなどでは、よく消費者にヒアリング調査を行う。「今どんなことに困っていますか?」「このような商品があったら買いたいと思いますか?」「いくらなら買いたいですか?」の類である(実際はいろいろと聞き方を工夫するわけだが)。
ここでよく言われるのは、「買う」と答えた人が必ずしも実際には買わないことである。それは当然、だって実際に商品が出てみないとわからないのだから。でもそれを言うと思考停止に陥ってしまう。
ひとつ考慮するといいのは、人間の言っていることと感じていることの間にはギャップがあることだ。つまり、「人間は、自分が実際今何を感じているのか常にわかっているわけではない」のである。一般に、言葉でポジティブな返答をする割合はポジティブな表情を浮かべる割合より通常少なくとも10%、時には20~30%も多いと言われている。ある調査では、ポジティブな回答をした回答者の中で、表情もポジティブだった人は74%しかいなかった。
以上、ほんの一例だが、人の感情・気持ちに関する考察をさまざまな局面に応用することによって、コンサルティングにも一層の深みと有効性がでてくるように思う。
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2009.10.27
2008.09.26

野口 昭彦
株式会社ライトワークス ディレクター
東京大学大学院理学系研究科化学専門課程修了。スタンフォード大学大学院コンピュータサイエンス科修士課程修了(MS)。日本IBMにて、ネットワークを使った新規事業立ち上げ等のプロジェクトに従事。ボストンコンサルティンググループ等で経営戦略コンサルティングを実施。ライトワークスではスマートデバイス等を利用したラーニングサービスの企画を手掛けている。
