M&Aにおいて、「シナジー」という言葉は魔物です。 なぜ、多くの企業が、シナジーという幻想に取り付かれてしまうのでしょうか。
買収企業の事業と、被買収企業の事業との間には、ビジネス上の補完関係や相乗効果がある。何らかのプラットフォームを共有化したり、商品ラインや製造設備を統合したり、ナレッジ・ノウハウを移転したりすることにより、コストを引き下げ、売上を引き上げることが可能になる。
そんなロジックのもとに、買収価格プレミアムは正当化され、多額の暖簾代が計上されます。
しかし、種々の調査は、それとは逆の結果を示しています。
・・・・・・・・・・・
ソロモン・スミス・バーニーの調べによると、被買収企業のその後の株価は、S&P500インデックスに比べ、マイナス14%のパフォーマンスだったということです。
プライス・ウォーターハウスの調べによる、合併企業の株価は、同業他社に比べ3.7%低いものでした。
ATカーニによれば、世界の115件の大M&A企業の株価リターンは、同業他社よりも58%低いものでした。
KPMGによると、国際的な700件の買収案件のうち、53%でその後株価が低下、30%がほぼ横ばいでした。つまり、買収後株価が上昇した案件は、わずか17%にすぎなかったのです。
マイケル・ジャンセン教授とリチャード・バラック教授は、
「M&Aは、せいぜいうまくいって、買収側の株主が損をしない程度でしょう」
とまで言っています。
・・・・・・・・・・・
なのになぜ、多くの企業がM&Aへと突き進んでいくのでしょうか。
それは、端的に言ってしまえば、M&Aという行為そのものが、「とても興奮するもの」だからです。
私自身、戦略コンサルタント時代は、大企業向けにM&A戦略を提案したこともありますし、現在もM&Aに関わることがありますから良く分かりますが、事業規模を急拡大することができ、今まで持っていなかった経営リソースを一日にして手に入れることができるM&Aは、経営者をとても興奮させるものです。
その結果、少なくない経営者が、正当な判断力を失ってしまうのです。
この、「ビッグディールを取りまとめるのだ」、というM&A特有の興奮が渦巻く中で、ディテールはしばしばなおざりにされます。
細かな話は投資銀行に丸投げされ、さらにビジネスデューディリジェンスはコンサルティングファームなどに丸投げされます。
実際に被買収企業の経営現場の最も細部まで知っておくべき買収当事者が、細部を丸投げしたままで突っ走ってしまう。
そうした姿勢こそが、こうした結果に生んでいるのだと言えます。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
関連記事
2009.02.10
2015.01.26