どんな組織にも、成果を圧倒的に引き上げる“キーパーソン”が存在します。営業であればトップセールス、店舗であれば現場を掌握する店長、企画であれば次々とアイデアを生み出すプランナー。そして多くの組織で起こる現実は、「その人が辞めた途端に、数字が落ちる。」「組織の質が下がる。」「顧客満足度が揺らぐ。」 人が辞めても続く仕組みを求めているはずなのに、現場はいつも“特定の誰か”に依存してしまう。なぜこの依存はなくならないのか。そして、どうすれば組織は「優秀な人の退職に揺らがない」状態になれるのか。その鍵となるのが、再現性です。
人依存の最大の問題は、「成功の理由が言語化されていない」こと
人に依存している組織では、成功が偶然性に委ねられています。たとえば、優秀な営業の行動を観察すると、「顧客の事前期待を正しく読み取り、先に設計し、行動で一致させている」という構造が見えてきます。しかし彼ら自身は、それを“意識的に”やっているとは限らない。
現場で起きているのは、多くの場合こうです。
・何が成功の本質なのかわからない
・うまくいっている行動をコピーしても再現できない
・成果が出る理由が説明できない
・属人的な判断が暗黙のルールになっている
これが、人に依存しつづける組織の宿命です。構造が分かっていないために、研修をしても変化が起きず、優秀な人の退職とともに成果が蒸発していく。
再現性が高い組織は何が違うのか
逆に、成果が安定している組織には必ず共通点があります。それは、成果を生むプロセスを構造として「見える化」していることです。見える化されているものには、単なる手順書ではなく、「なぜその行動が成果につながるのか」を説明できるロジックが存在します。ここが重要です。
ロジックがあるから、人は自分で応用できる。つまり、再現性が高い組織とは、行動の“本質”を説明できる組織です。行動そのものを教えるのではありません。行動の裏側にある“因果”を伝えています。すると、個人のやり方が違っても、成果は安定する。優秀な人が辞めても、残った組織で成果が維持される。ロジックが共有されている組織ほど、変化に強い理由はここにあります。
ARISEは“行動の理由”を構造化するフレーム
ARISEの強みは、行動を指導するためのチェックリストではなく、「成果が生まれるメカニズム」を説明するフレームだという点です。だからどの業種にも適用でき、誰が使っても成果のブレが小さくなる。
ARISEを簡単に振り返ると、
- A(Alignment):相手の目的と状況を揃える
- R(Recognition):相手の“事前期待”を読み解く
- I(Integration):事前期待と価値提供のプロセスを統合する
- S(Shift):相手の認識を一段階引き上げる
- E(Evaluation):価値の受け取り方を確認し定着させる
この5つは、「何をすべきか」と同時に「なぜそれをすべきか」を説明できる構造です。ここが、行動手順やマニュアルとは決定的に違います。ARISEを理解したスタッフは、手順を覚えるのではなく“相手の事前期待 × 行動の一致”という本質をつかむため、シーンが変わっても成果を出せる。再現性とは「状況の変化に強いこと」でもあります。
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2015.07.10
2009.02.10
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)
サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新
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