サービスサイエンティストとして、サービスの本質的な理論を提唱し続ける松井さんとパナソニックで実際にCX・CSに向き合い、お客様へのサービスを提供されている今村さんをお迎えしてお話を伺っていきたいと思います。 (聞き手:猪口真)
猪口 資料にもありますが、家電商品というのは、購入してしまうと、家電メーカーと顧客の間に修理以外にコミュニケーションがなくなります。この空白期間をなんとかしようとしたわけですね。
今村 そうなんです。家電を売ることが最終ゴールであれば、それはコストであり、できるだけ手間をなくしたいという発想になります。でも、家電が家に行って、価値を生み出すことに本当の意味があるのであれば、買っていただいて置いておくだけでは価値になりません。今の家電は多くの機能が備わっています。「たくさんの機能があれば素敵なくらしになるはず」と思って買う時が喜びのピークになるのではなく、購入後さらに「買ってよかった」と感じていただくためには、押し付けではない、顧客視点の良い関係づくりがあるのではないかと思いました。私たちにとっても、そこでつながりを持てたらお客様から得たフィードバックを次の商品に反映できますし、サービスの在り方そのものも変わるかもしれません。購入後の空白期間をチャンスに変えたいというのが、このプロジェクトのスタートでした。
猪口 松井さんは、このたび新刊として『事前期待 リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図』を上梓されました。サービスに関して以前より提言を続けてこられてきた松井さんが常におっしゃっているように、日本企業の多くは、サービスは無料で、出て行くコストをどれだけ抑えるかという発想にとどまっていますよね。
松井 モノ売り型を続けている限り、買ってもらっておしまい、せいぜい使い方をガイドしておしまいで、お客様との接点は次に故障する十数年後までほぼないため、次の買い替えの原動力にはなりません。
製造業はこれまで、商品の性能を高めて他社との差をつけようと必死に取り組んできました。しかし、世の中にはすでにハイスペックな商品が出揃い、良し悪しはあっても、顧客から見ればその差はわかりにくい。
一方、サービスが生み出す価値の差にはまだ大きな伸びしろがあります。この空白期間をプラスに変えるのがサービスの設計図です。モノ売り発想は売るのがゴールですが、サービス発想は購入をスタートラインにできます。パナソニックの家電を買ってもらったら、そこから「一緒にくらしを作り上げる」というコンセプトを持ちながら、そのスタートラインに立つためのサービス設計ができたら、とても素敵ですよね。
猪口 「サービス設計いう言葉には、単に「こういうサービスをつければお客様が喜ぶだろう」という発想ではなく、家電商品の持つ力を大きく広げるものですね。
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